生理用品をめぐり様々な課題を抱える「生理の貧困」。世界各地では、生理用品を買えない女性に向けて無料提供が行なわれており、日本でも学校を中心に実施されはじめています。けれど「生理の貧困」は、経済的困窮の問題だけではありません。そこには慣習や文化、人権問題など根深くはびこる課題が多く潜んでいます。

生理中に隔離され、穢れとして扱われたり……女性の尊厳が生理により損なわれることもあるというケニア、バングラデシュで女性の支援を行う特定非営利活動法人「ピースウィンズ・ジャパン」は、オンライントークイベント「世界の女の子の生理のはなし〜ケニア・バングラデシュから考える『生理の貧困』」を実施。モデレーターに、ミモレでもジェンダーにまつわるコラムを連載するエッセイスト、タレントの小島慶子さん、ゲストスピーカーに公衆衛生の専門家として人道支援に携わってきた医師の國井修さんを迎え、ケニア、バングラデシュの女性が直面する深刻すぎる現状に言及。課題解決に向けた取り組みを紹介しながら、「私たちにできること」をディスカッションする時間となりました。

左から順に・相島未有沙さん、土井紗也香さん、千葉暁子さん(すべてピースウィンズジャパン)、小島慶子さん、國井修さん

小島慶子(以下小島) まずケニアの現状と、ピースウィンズ・ジャパンさんが取り組んでいる活動を教えていただけますか?

千葉暁子(以下千葉) 私たちが事業を中心的に行うケニア北西部トゥルカナ郡にあるカクマ難民キャンプ、カロベエイ難民居住地区は、南スーダン、エチオピア、コンゴといった近隣国出身の人たちで構成されており、女性や子どもが多いです。生理をめぐる背景や事情は色々とあるのですが、中でも特徴的なのは性に関する話題がタブー視されていること。家庭だけでなく学校でも、生理の仕組みや対処法について学ぶ機会がほとんどなく、それが生理に関する理解不足につながっています。また、経血は穢れているものという観念の根深さから、料理をしてはいけない、教会に行ってはいけないなど、月経中の女性の行動が制限されています。さらに夫が家計の管理を握る家庭が多く、生理用品を買うお金を与えてもらえず、月経中は古布や紙、ヤギの皮などを経血受けに使っています。それにより生理中は学校を休んで家に閉じこもったり、生理用品を取り替えずに1日以上使ったり、生理用品代を得るために援助交際もせざるを得ない状況です。

 

そんな現状を少しでも変えようと、私たちは、現地の女性たちが生理中も生き生きとして過ごせることを目的とした取り組みをしています。

・布製生理用品の配布、使い方、洗い方の指導。
・布製生理用品をつくる現地の縫製グループの支援。
・男性教師や保健師など啓発する人材に向け、月経衛生管理についての指導・育成。
・学校のクラブ活動や課外授業で、彼らから子どもたちに向けた月経衛生管理の指導。
・指導するだけでなく話し合う場を設けるコミュニティ発足。
・楽しく学ぶためにスポーツイベントを絡めた啓発キャンペーンを実施。
・政府や保健、教育パートナー(国連や他団体など)との連携促進。資金調達などのアドボカシーに注力。

上記の取り組みを通じて、生理中でも学校に行けるようになったり、以前のように恥ずかしがらずに生理にまつわる経験を人に話したり、親や周りに支援を求める女性が増えました。以前は道端に捨てられていた使用済み生理用品の数も減ってきています。

 

小島 女性の置かれている状況は、かなり深刻ですね。子どもだけでなく大人にも啓発活動を行っているということですが、知識を得たとしても、すぐに意識が変わる人ばかりではないですよね。どのようにして古い慣習や思い込みをなくす工夫をされているのでしょうか。

千葉 私たちは、月経中の女性のより良い暮らしを支えることが目的なので、文化的背景や社会的背景に結びつく考えを否定するつもりはありません。様々な場所やシーンで、月経衛生管理について発信することで、社会全体に流れを作ること目指していきたいですね。

小島 では次にバングラデシュの現状と活動を教えていただけますか?

 

 

土井紗也香(以下土井) バングラデシュでは女性の健康を支える上でとても大切な母子保健に関する事業を行っており、ミャンマーから避難してきた約90万人の難民が暮らす(人口の半数以上が18歳未満)世界最大規模として知られるロヒンギャ難民キャンプを拠点としています。現地の医療団体とともに難民とキャンプ周辺に住むローカルコミニティに対し保健医療サービスを行っていますが、やはりここでも女性が生活するうえで様々な課題に直面しています。

彼らにはミャンマーにいるときから女性より男性の立場が強い文化的背景があり、意思決定はすべて男性の意見。何をするにしても男性の許可が必要なことから、若い女性が教育を受けたりライフスキルを学んだり、様々な支援を受ける機会が圧倒的に少ないんです。そして若い女性による出生率が非常に高いことも課題として挙げられます。それなのに妊娠中に健診に訪れる回数が少なく、安全かつ衛生的ではないとされる自宅での分娩をする割合も多い。そんな状況下から、私たちは妊娠中の健診診の必要性や、安全に出産するうえで重要な知識、家族計画の大切さや避妊法などを伝える活動をしています。この母子保健サービスを受けてもらうためには夫の理解が不可欠のため、男性に対しても啓発を行っているところです。

生理においては、キャンプ内でも再利用できる布ナプキンを配布している団体もあります。ただキャンプ内は人口密度が高く、トイレも水浴び場も男女共同でプライバシーを確保することが難しいことから、男性の目を気にせずナプキンを洗える場所がないというのも課題です。また使用済みナプキンの処分の仕方がわからず土に埋めいる人もいると聞きます。

小島 ケニアとバングラデシュでは、女性が男性の持ち物と見なされているため、自分の人生について決定する自由がなく、体をケアすることも難しいという共通の問題がありますね。女性自身も周囲の人も、生理をはじめとした性に関する正しい知識を得て意識を変え、偏見や間違った習慣をなくすことが必要です。ロヒンギャの人たちの難民キャンプでの生活を、少しでも衛生的で安全なものにするためにも、不可欠だと思います。

では、こうした女性たちを助けるために、遠い日本にいる私たちはどんなことができるのでしょうか。これまで様々な途上国で女性たちの状況をご覧になってきた國井さんに伺います。

國井 もちろん生理も重要ですが、女性は生まれてから死ぬまでのライフコースの中で多くの問題を抱えています。例えばバングラデシュやインドでは、男の子を大切に育てるという背景があり女の子は十分な食事が与えられなかったり、ケニアでは15〜19歳の女の子のうち4〜5人にひとりが性暴力の被害にあっています。

 

私が以前働いていたソマリアでは、ほとんどの子どもに女性器切除(FGM)を行っていました。大人になるための通過儀礼として、陰核と小陰唇を切除し、尿道と生理のための開口部を残し外陰唇を縫合することもあります。もちろん痛みも激しいですし、感染症で命を落とすこともある。性器が変形して子どもが産めなくなったり、難産で母子ともに死に至るケースもあります。また経済的困窮に陥る若い女性の援助交際や性暴力により、男性よりも女性のHIV感染率が高い国が少なくありません。

この深刻な問題を解決するためにどうすれば良いのかを考えたときに、やはり重要なのはお母さんたちです。自分や子どもたちが今置かれている状況が問題であること、そのための解決方法があること、自分たちが立ち上がる必要があることなどをきちんと理解してもらい、健康や保健医療に関する知識を得てもらう。まずは基礎的なものからはじめ、トレーニングを重ねながら知見を広めていく。またお互いに助け合える女性のコミュニティを作ったり、女性が自立できる雇用の促進など、色々な方法があるのでトライしてみることですね。

小島 女性器切除について、初めて知った方も多いかもしれません。女性器切除は、男性の持ち物である女性が性的快楽を得たり、性について主体的に意思決定をしてはならないという価値観に基づく風習です。代々受け継がれ、社会に深く根ざしているため、女性の心身を深く傷つける風習とわかっていてもなかなか変えることができません。こうした過酷な現状に「私にできることなんてないかも」と感じる人もいるかもしれません。視聴者のみなさんにできることを教えてください。

相島 この配信でお伝えしたことを、周りの方にぜひ話していただきたいです。また私たちの取り組みに参加いただけるようでしたら寄付という方法もあります。ケニアのカクマ地域には約60000人の月経を迎えた女性がいます。私たちが生理用品の配布や活動を実施できているのは、そのうち5500人です。例えば2000円の寄付をいただけると、布ナプキン2枚とポーチのセットを2人に渡すことができます。ぜひケニアやバングラデシュの女性が生き生きと暮らせるよう、プロジェクトを支えていただけるとうれしいです。

ケニア、バングラデシュで起こる生理の貧困。胸が痛む過酷な現実を、自分ごととして身近に感じるのは難しいかもしれません。けれど同じ女性目線で何ができるのかを考えてみると、遠い国との距離がぐっと縮まるのを感じられるのではないでしょうか。

【クラウドファンディング実施中!】
生理に関する「沈黙を破る」ケニアの女の子が生理でも笑顔で暮らせる環境をつくりたい!

特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパンは、ケニアの女の子たちが生理でも笑顔で暮らせる環境づくりのためにクラウドファンディングを実施しています。締め切りは、目標達成にかかわらず2022年1月28日23:59まで。「私にもなにかできることはないかな」そう感じている方は、ぜひご協力ください。


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文/大森奈奈