ニーズに対して利用者はわずか2%という現実


成年後見制度とは、認知症や知的障害などによって判断能力が不十分な状態にあり、自分1人では契約や財産の管理などをすることが難しい方たちを保護し、支援する制度です。成年後見人は法律上の代理人となるため、家族でもできない定期預金の解約をはじめ、自宅不動産の売却による資金捻出など、さまざまなことが法律上可能となります。

これだけ見ると非常に良い制度ですが、実際の利用率は低く、2020年の時点で成年後見制度を利用している人は約23万人。潜在的な後見ニーズ(判断能力が不十分とみられる人の総数:推計およそ1,000万人)のわずか2%という数字です。

ではなぜ、成年後見制度は利用されないのでしょうか。それには大きく4つの理由が考えられます。

①後見人を家族にしたいという希望は出せても選任は家庭裁判所が行う。そのため、家族以外の弁護士や司法書士が選任されることもあり、結果的に他人に通帳等の財産を預けることに。

②後見人に対する報酬や事務費を、自身が死亡するまで支払い続けなければならない。

③一度決まった後見人は変えることができず、その後見人が死亡するまで続く。

④本人の生活や健康を維持するための出費以外の財産は動かせない。

 


全国銀行協会による新指針で状況はどう変わった?


このような状況を鑑み、一般社団法人全国銀行協会は2021年2月に新指針「金融取引の代理等に関する考え方」をまとめました。それは一定の条件下であれば、成年後見人を選ばなくても預金の引き出しを可能にするというものです。

①本人の判断能力が衰退していることの証明(診断書等)
②引き出せる預金の使用用途には制限(医療・介護費/生活費)
③親族等であること

これらの条件を満たすのであれば、親が認知症になって財産管理ができなくても、すぐに成年後見制度の利用を検討するのではなく、新指針に基づく対応をしてもらえるかどうかを銀行に確認してみるのがベストです。ただし定期預金の解約や、自宅不動産の売却によって資金を捻出する等であれば、成年後見制度の利用が必要になってくるので、状況に応じて検討する必要がありそうです。
 

写真/Shutterstock
構成/渋澤和世
取材・文/井手朋子

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