エンタメ業界で活躍するライター6名が、2021年に公開・放送・配信(海外作品は2021年日本公開)された作品から「個人的ベスト5」を選出。まだビミョーに遠出はしにくい今年の年末年始。家で過ごす時間は、気になっていたあの作品のイッキ見に費やしてはいかが?

選者:渥美志保さん(ライター/コラムニスト)日本の映画やドラマでは、社会的な要素が入ると途端にゴリッとした「社会派」のような作品になってしまいますが、最近はやりの韓国ドラマをはじめ海外の作品は、社会的な要素が入るのは当たり前。でも必ずしも「お勉強的」でなく、きっちりとエンタメ作品だってこと。今回は特にミモレ世代の読者の方が、笑ったり泣いたりした後に、「そういえば、そうなんだ」と思える作品を選んでみました。

映画『野球少女』
(各種サブスクにて配信中

幼い頃から野球の天才少女として名をはせ、高校でも男子ばかりの野球部に選手として所属するスインは、プロ野球選手になるのが夢。プロ野球は韓国も日本も実は「性別」の規定がなく、女性でも選手になることが可能です。でもやはりハードルは高く、周囲は「女がプロになるなんて」と馬鹿にします。でもスインは「自分の未来は自分にだってわからない」と強い目で言い返しながら、決して腐らず、黙々と努力を続けます。映画が描くのはスポ根でもサクセスストーリーでもなく、「女だから」の壁を前にしながら、ひたすらにひたむきにそれを乗り越えようとする主人公です。

さらに感動的なのは、そんな彼女を前に自分の人生に捨て鉢になっていた人たちが変わってゆくこと。特に印象的なのは、外で家庭で、働き詰めで家族を支えてきた母親との関係です。母親は「現実を見ろ」と夢をあきらめさせようとするけれど、彼女にだって本当は「女性だから諦めた自分の人生」があった。そうした人たちの思いがひとつになってゆくラストが胸熱です。

キャストは韓国ドラマファンにはお馴染みの面々。中性的で意思的な魅力の主演イ・ジェヨンのひたむきな姿には、トランス女性を演じた『梨泰院クラス』と同様に泣かされます。彼女を支える二人の男性は、コーチ役にイ・ジュニョクと、幼馴染で野球部の同期のクァク・ドンヨン。前者は『秘密の森』でチャラくて怪しすぎる検事役で、後者は『ビンチェンツォ』のアホな会長役で、それぞれ笑わせてくれましたが、こちらでは打って変わって、ヒロインの努力を見守り、夢の実現ために一緒に戦ってくれる姿がすごくかっこいいです。

 


映画『ミス・フランスになりたい!』
(各種サブスクにて配信中)

映画は「ミス・フランス」を目指す主人公アレックスの奮闘を、その選考過程とともに描いてゆくのですが、この作品のなにが特別かと言えば、アレックスが生物学的に男性であること。そして、こんな言い方をするのはそれこそジェンダー的にどうなんだという気もするが、その主人公が男性と言われなければわからないほどに、超絶に美しいこと。地域代表として駒を進めた全国大会には各地域の「ミス」が集まっていますが、はっきりいって美しさでアレックスに勝る女性はいません。でもその場面を見る私たちの脳裏には、映画前半である人物が発した「本当の女にはなれない」という言葉が、通奏低音のように響きます。

映画はミスコンが象徴する「ルッキズム」「女性のモノ的消費」などの問題を指摘すると同時に、一方ではそれを自から追い求め、もう一方ではそこから脱却したいと望む女性たちの姿をも描き出す。件の人物はこうも言います。「女になるのは大変よ。失敗すれば尻軽と言われ、成功してもやっぱり尻軽と言われる」。作品はアレックスを通じて、今の女性が経験する現実を浮き彫りにしてゆきます。そのうえで、かつて「ミスになりたい、女性になりたい」と願うアレックスがてにする栄光とはどんなものでしょうか。

キラキラしたミスコンの光と影、彼女を応援するコミュニティの多様さなどもコミカルに描かれ楽しい作品です。そしてこの人がいなければ決して実現しなかった、ヒロインを演じるジェンダーレスモデル、アレクサンドル・ヴェテールの超絶の美しさは最大の見どころ。ここまでの人が出てくると、もはや「性別がどうこう」というのがアホに思えてきます。