「シンプル・イズ・ベスト」は本当か?

 

古きよき時代の人たちは、外出といえば、必ず帽子をかぶり、手袋をしていたものです。試しに、大正時代から昭和初期のころの写真を見てごらんなさい。酒屋の小僧さんだってちゃんと帽子をかぶってますよ。鳥打ち帽やカンカン帽、中折れ帽……みんなそれぞれの個性にあったものを選び、お洒落を競っていたんです。そのようにして他人の前と自分の寝室とはちゃんと区別していたのです。

そう、第二次世界大戦前まで、そんな優雅な美意識が確かに存在していた。けれど、軍人たちが、いきなり帽子を防空ずきんに変えてしまった。そして、その後に台頭してきたえせインテリたちが「シンプル・イズ・ベスト」をスローガンのように掲げ、簡素化したものこそがすばらしい、なんて言いだしたのです。機能本位、便利さ、経済性。それだけ。

 


真のシンプルは、「殺風景」とは違う

 

シンプルと味気なさはまったく別ものだということもわからず、住まいも家具も食器も洋服もすべて、殺風景=シンプルだと思い込んでいる単細胞の人がなんと多いことでしょう。

いつもいつも、不吉なカラスのような黒ずくめの服にノーアクセサリー。そんな“シンプルファッション”は、若さという、何者にもかえがたい宝石の輝きを鈍らせます。そうならないためにももう一度、本当の美意識とは何か、考えてみてください。