つぎつぎと並ぶ、CAを全面に押し出した動画の数々に結子は絶句する。中には会社都合で休職中の知り合いの顔もあった。動画のタイトルをスクロールするうちにしょんぼりした気持ちになる。

そう、コロナ禍は航空会社にとって大打撃を通り越して、修復できないほどの傷を残した。

30人いた同期は、2年前までは5人残っていた。しかしフライトが激減し、出向を言い渡されたふたりは、いい機会だからと転職してしまった。給与もカットされ、フライト手当もつかない日々。転職してしまうのは仕方ない。事情は人それぞれなのだ。しかし、それでも結子はCAという看板をつかってYouTubeに出るというのはどうにも受け付けない。

「ああっ、こんなのどこの会社なのかすぐわかっちゃうじゃない! どうしてだらしない日常の生態なんて解説なんてするの、舞台ウラは見せちゃだめだってば」

スクロールしながら結子はため息をついた。再生回数を伸ばしたいのだろう、動画のトップには品がない見出しも躍る。出ているのはどうみても20代の、またCAとしては半人前で辞めてしまった子たちだ。会社が莫大なコストをかけて訓練してくれたことを分かっているのだろうか。そのくせちゃっかりと元CAという肩書でつまらぬ動画をアップしている。

「って、再生回数100万回!?」

結子がしょうもない、と思った動画ほど再生回数が伸びている。今度こそがっくりと肩を落として、ベッドにもぐりこんだ。やっぱり自分は古い人間なのかもしれない。Z世代にはかなわないのだ。

 


まさかの辞令


帰国してから、2日間のオフはあっという間に過ぎてしまった。長時間のフライトは、認めたくないが年々こたえる。東海岸の時差はことさらきつく感じるようになっていた。

オフ明けは地上のマニュアル改訂業務が入っていて、久し振りに本社に出社だ。オフィス仕様にばちっとキメて意気揚々と席に着くと、部長が結子を手招きしている。

「深谷さん、ちょっといいかな」

こういう時は、たいていいい話だ。例えばご褒美的な位置づけで、信頼が厚いCAが指名されがちなVIPチャーター便担当として珍しい国に行けたり、テレビ番組で新サービスを紹介したり。とにかく周りに聞かれると嫉妬されてしまうような話で、上司たちが結子に気を遣ってくれるのが常だ。

「部長、今回はどのようなお話でしょうか?」

会議室に入るなり、にっこりと話しやすい雰囲気をつくった結子に、部長はさらなる満面の笑みで宣告した。

「深谷さん、君に訓練教官の打診がきたよ。来月から、訓練センターで中断していた新人CAの訓練を担当してほしいんだ。教官として辣腕をふるってくれたまえ」

 
次週予告:
急転直下、教官に任命された結子。なんとか気持ちを立て直し、ハイテンションで行くものの、そこで出会ったのはなんと……!?
構成/山本理沙


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