超高齢社会を生きる私たちが望むのは、ただ長生きするのではなく、“死ぬまで元気”でいること。なるべく人の手を借りず、最期まで自立した生活を送りたい。そのために、今すぐできることは何か。NY在住の老年医学専門医、山田悠史先生の新刊『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』(6月24日発売)から、その答えをひとつご紹介します。


「予防医療」を考えるうえで重要なのは健康診断、予防接種、生活習慣の三つです。ここでは予防接種についてお話します。

人類の進化と繁栄の歴史は、予防接種なしには語れません。有効な予防接種の誕生と、子どもへの接種の広がりによって、人類の脅威となってきた感染症の多くが劇的に減少し、中には根絶されたものもあります(参考文献1)。それが、人類の寿命の延伸に大きく貢献してきました。

また、予防接種は接種を受けた個人の健康と命を守るばかりか、「集団免疫」を通して、社会全体を守ってきました(参考文献2)

「ワクチン忌避は有効なワクチンこそが生んできた」という皮肉まであります(参考文献3)。有効なワクチンが数多く誕生することにより、人類の脅威となる感染症が身近でなくなったために、現在を生きる人々にとって、そのありがたみがわからなくなり、「ワクチンなんて意味がない」という主張が通るようになってしまったのです。本当はワクチンがあり、皆が当たり前のように受けているからこそ、遠ざけることができているにもかかわらず。
 

予防接種は「体の防災訓練」のようなもの


ここではまず、予防接種がどのような仕組みで働くのかというところから考えていきたいと思います。

予防接種というのは、例えるならばいわば防災訓練。なんらかの天災が起こった時、避難の仕方や身の守り方を全く知らなければ、被害に遭う確率は高くなるでしょう。一方、事前に「こんな災害が起こったらこう避難する、こう身を守る」ということを防災訓練でしっかりシミュレーションしておけば、被害に遭う確率をゼロにはできなくとも、確率を下げることはできるでしょう。

 

予防接種による防災訓練では「免疫」のトレーニングを行います。人の体を一つの街に例えると、免疫というのは、いわば街の警察システムです。免疫は、日常的に街の治安を守ってくれています。ちょっと悪者(病原体)が襲ってきたぐらいでも、警察(免疫)がすぐに取り締まりを行い、撃退してくれるため、街(体)の治安(健康)は守られます。

 

このようにして、細菌やウイルスが共存する世界でも、体調を大きく崩すことなく生活ができるのです。

しかし、強力な犯罪者が一度に多数襲ってきてしまったとしたらどうでしょうか。交番の警察官ではとても対応しきれず、応援を呼ぶしかありません。しかし、応援を呼んでいる間にも犯罪者の魔の手は広がり、あっという間に街は被害を受けてしまいます。こうして感染症は起こってしまうのです。

ただし、警察官もやられてばかりではありません。一度被害を受けた経験があると、それを記憶します。このため、次に同じ犯罪者が入ってきた時には、すぐにその犯罪者の顔を認識し、特殊部隊が応援に駆けつけて、大きな被害を出す前に対応することができるようになるのです。

このように、免疫は、一度出会った感染症に対応できるよう記憶できることが知られています。

 
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