では、予防接種という名の防災訓練では何をするかというと、実際に“病原体”という犯罪者を連れてくると何をしでかすかわからないので、代わりに犯罪者に瓜二つの模型を準備します。警察はその模型を使って、どんな顔立ちで、どんな振る舞いをするのかをシミュレーションする。つまり、安全にトレーニングする機会が得られるのです。

もちろん模型を使った訓練でも、訓練中に街の一部に傷(副反応)を作ってしまうことはあるかもしれません。しかし、あくまで模型なので、大きな被害の心配はなく、安全に訓練ができるというわけです。そして、いざ本物の犯罪者が侵入してきた時にはトレーニングが役立って、容易に撃退ができるようになるのです。

新型コロナを機にワクチンの技術が進歩


また、新型コロナウイルス感染症の感染流行を皮切りに、新しいタイプのワクチンも用いることができるようになりました。

これまでのワクチンが模型を用いていたのに対して、新型コロナウイルスの予防接種に用いられたのは、模型の作り方を書いた「説明書」を届けるタイプのワクチンです。

現代人は「ワクチンのありがたみ」がわからなくなっている!2分でわかる予防接種の意味【医師・山田悠史】_img0
 

実は、人間の体は説明書さえあれば精巧な模型を作れるということがわかっていたのです。しかし、これまでは説明書を上手に届けるための優秀な運び屋を確保することができませんでした。

しかし今回、mRNAワクチンが開発され、改良を重ねた「mRNA」が説明書の運び屋として優れた仕事をしてくれることがわかりました。mRNAワクチンの接種を受けると、mRNAが説明書をしっかり届けてくれ、人間の体は、説明書を読み込んで、自分の持っている材料を使って正確に模型を作り上げることができます。

 

mRNAワクチンを用いることの何よりのメリットは、精巧な模型を工場で準備する必要がなく、説明書だけを作ればよいので、ワクチンを仕上げるまでに時間がかからないことです。このため、早い段階で新型コロナウイルスに対して有効なワクチンを準備することができました。

今後はこのような新しいプラットフォームが他の感染症にも広がっていくことでしょう。こういった技術の開発や進歩によって、より安全に正確に、免疫のトレーニングができるようになってきています。

予防接種を受けることは、日常の防災訓練と同じ。「災害に遭わなければそれでよい」という考え方もできますが、長い人生これから困難に出逢うこともあるでしょう。そんな時、日頃の訓練が生き、訓練を受けておいてよかったと感じることができます。何かあってからでは遅いことも多く、未然の段階での準備こそが大切なのです。
 

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前回記事「日本の健康診断は時代遅れ!? 日本では定番の検査2つを欧米ではやらない理由【医師・山田悠史】」はこちら>>


参考文献
1 Benefits from Immunization During the Vaccines for Children Program Era — United States, 1994–2013. https://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6316a4.htm (accessed Jan 14, 2022).
2 Rashid H, Khandaker G, Booy R. Vaccination and herd immunity: what more do we know? Curr Opin Infect Dis 2012; 25: 243–9.
3 Healy CM, Pickering LK. How to communicate with vaccine-hesitant parents. Pediatrics 2011; 127 Suppl 1. DOI:10.1542/PEDS.2010-1722S.

構成/中川明紀
写真/shutterstock


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