超高齢社会を生きる私たちが望むのは、ただ長生きするのではなく、“死ぬまで元気”でいること。なるべく人の手を借りず、最期まで自立した生活を送りたい。そのために、今すぐできることは何か。NY在住の老年医学専門医、山田悠史先生の新刊『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』(6月24日発売)から、その答えをひとつご紹介します。

「健康によい」食事が治療の妨げに


好きなものを食べることの大切さについて、患者さんとのエピソードを一つ紹介したいと思います。

患者さんは血液のがんと診断されて、抗がん剤で治療中の男性。夫のがんをよくするためならなんでもしたいという思いで、奥様は「がんに効く食事」という類の本を読み漁り、一生懸命勉強して、夫にできるだけ「がんに効く」ご飯を食べてもらうように工夫をしました。

「健康によい」と巷で言われることはすべて徹底しようと、塩分は極力制限し、醤油を使うのもやめました。また、「糖質ががんに悪い」と聞いて、患者さんが大好きだったアイスクリームも食べないようにと没収しました。

これは、すべて患者さんへの愛情からの行動だと思います。しかし、患者さんの体重はみるみるうちに減っていってしまいました。奥様からすれば、健康のために栄養にも最善を尽くしたのだから、体重が減っているのはすべて抗がん剤のせいに違いないと思われたかもしれません。実際、私たちも抗がん剤の副作用の可能性を考え、吐き気どめを変更し、抗がん剤の調整なども相談しました。

 

その傍ら、患者さん本人と、最近の食生活について時間を作って話をすることにしました。すると、患者さんから正直な気持ちを聞くことができました。

 

「吐き気が出るのは抗がん剤を投与してからの2、3日で、それ以外の期間は吐き気もなく食欲もないわけではない。ただ、妻の最近の味付けが口に合わなくなってしまった」というのです。食べられるものが限られるようになり、それで食べる量が減ってしまったと打ち明けてくれました。

 
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