社会の上澄みのネットワークに子どもを入れなくてはと考える親心は、日本でも海外でも同じです。まさに私と夫の親も、良かれと思って子どもを中学から私立に入れて、日本の上澄みのネットワークに組み込んでくれました。70〜80年代の日本では、中学からいい学校に入れておけばいい会社に就職できるし老後も安泰だと考えたのも無理はないでしょう。実際、20世紀いっぱいはそうした社会が続きました。自分が恵まれていることは実感しているし、親にも感謝しています。でも、現在私も夫も会社勤めをしていないのを見ればわかるように、子どもは親の思い通りにはなりません。まして21世紀生まれで大きな変化の中を生きていく息子たちには、自分が経験したのと同じやり方は当てはまらないと思いました。

いやいや、むしろそうした“いい学校信仰”は強まっているという人もいるでしょう。そうですね。今は、もはや東大は滑り止めとも言われます。学力の高い子たちはアメリカのアイビーリーグやイギリスの名門校に進学するのが目標で、ダメなら仕方ないから東大か京大に行くかという感覚だというのですね。海外進学コースのある私立も人気です。2003年に私が長男を産んだ時にも、すでにそういう兆候はありました。そのとき腕の中の赤ん坊を見てこう考えました。「私は、この人が誰だかまだ知らない。この人が、何が得意で何を面白がるのかもわからない。将来ハーバードに行きたいのか、ダンスがしたいのかもわからない。それは、この人が決めればいいのではないか。というか、私がベストな解を出してあげるのは大変すぎるから、自分で決めてほしいな!」

 

長男は志望通りに進学し、いま大学で学んでいます。高校の仲良したちの進路はさまざま。一番勉強が得意な子は、難関を突破して軍隊に入りました。もう働いている子もいるし、何が勉強したいかしばらく考えるという子もいます。今もよく集まっては、バーに行ったりしています。オーストラリアの18歳は、もうお酒も飲める成人です。すっかり青年になった長男と話していると、あの「私はこの人を知らない」と思いながら腕に抱いた赤ん坊を思い出します。彼は、今も未知の人。当時の私には想像もつかなかったような場所に、彼自身の足でたどり着きました。すごいなあ、と思います。

親が予想できる我が子の未来の姿なんて、本当にたかが知れています。むしろ子育ての楽しみは、予想ができないことにあるのではないかと思うのです。今年高2になる次男も、いよいよ受験の準備に入ります。毎日愉快そうに友達とゲームをやっていますが、きっといろんなことを考えているんでしょう。精一杯応援してあげようと思います。

<参考文献>
1.UNIVERSITIES AUSTRALIA | 2020 HIGHER EDUCATION FACTS AND FIGURES

写真/Shutterstock


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