何気なく受診した婦人科で
子宮筋腫と診断された

 

伊藤:伊調さんは、月経時の身体の変化について、男性指導者にも話していましたか?

伊調:学生の頃は、なかなか言えませんでしたね。でも、徐々に自分の体調のコントロールが試合結果につながっていくことを理解していくと、コーチにも伝える必要性を感じるようになりました。
ただ、そう考えられるようになったのは社会人になってからかな……。

伊藤:婦人科に行こうと思われたのは、月経時の体重をコントロールしたかったからでしょうか?

伊調:そうですね。北京オリンピック後には、一度、引退してOL生活をしていたのですが、復帰を決めた時には58kg級で戦おうと思っていましたし、さらに計量方法が変わっていたんです。

これはあらためて自分の身体と向き合う必要があると考え、PMSの治療のために婦人科を受診しました。そうしたら、予想外に子宮筋腫が見つかって。
もともと東京オリンピックをめざして復帰していたので、先生にご相談をして、手術はオリンピック後まで先延ばしするつもりでした。

伊藤:それが結局、東京オリンピックの前に手術をされたのですよね。

伊調:検診を続けていくなかで、徐々に筋腫が大きくなり、経血の量も増えてしまって。自覚症状が出てきたので手術に踏み切ったのですが、540gもの筋腫が取れました。

伊藤:540gとは、減量にもかなり影響がありそうですね。

伊調: だいぶ影響がありました(笑)。
術後は2ヶ月程で月経が復活し、経血の量も元通りに。体調が戻ったことを実感しました。

能瀬:経血の量は他人と比較できないので、自分が特別に多いのかどうかわかりにくいと思いますが、貧血があるようなら婦人科で検査してみた方がいいですね。

伊藤:貧血が続くとどうなるんですか?

 

能瀬:もちろん、パフォーマンスにも影響が出ます。最大酸素摂取量が減るので、持久力が必要な競技も辛いと思いますよ。

伊調:そう言えば、受診の際によく「疲れやすいですか?」と聞かれたのですが、あれはどう捉えればよかったのでしょうか?

伊藤:アスリートは、身体の疲れを精神力でカバーしてしまうところがありますもんね。

伊調:そうなんです。キツい練習をしたら、当然疲れるじゃないですか。
疲れている原因が、貧血だからなのか、練習が大変だったからなのか判断しにくくて。
そう考えると、アスリートは病気を発見しにくい傾向があるかもしれません。

能瀬:問題がなければよいのですが、一度、婦人科でチェックしておくと安心です。

伊藤:手術後は、月経前の食欲増進はどうなりましたか?

伊調:それは変わりませんでした。

能瀬:筋腫の手術ですからね。PMSの症状は変わりません(笑)。

 


婦人科は体調管理のパートナー
健康なうちから定期検診を


伊藤:伊調さんは、現在は選手であると同時に後進の指導もされていますが、月経に関して何か意識していることはありますか?

伊調:選手の不調を感じたら、「どうした? いつもと違うね」などと声を掛けるようにして、月経が辛そうな場合は婦人科の先生を紹介しています。
些細な変化に気づいてあげられるように、しっかりとコミュニケーションを取っていきたいですね。
また、「パフォーマンスのためにも、自分の身体と向き合って行こう」ということは、頻繁に伝えるようにしています。

能瀬:10代の頃から一生懸命頑張ってきた選手が、いざ大事な試合を前に経血の量がひどくて棄権してしまうという事例をいくつも見てきました。
対策がないなら仕方ありませんが、治療法はありますから、ぜひ余裕のあるうちに婦人科を受診して欲しいですね。

ただ、これまでは「月経のことで悩んだら、受診のタイミング」とお伝えしてきましたが、伊調さんは悩んでいらっしゃらなかったのですよね。今後は「症状がない場合でも、一度は検診を受けてみてください」と修正したいと思います(笑)。

伊藤:伊調さん、最後にいまも頑張っている女性アスリートのみなさんにメッセージをお願いします。

伊調:私は、かなり長く現役を続けている方ですが、そんななかで、生理に向き合わなかった時期と向き合った時期の両方を体験しました。
皆さんに言えることは、「元気なうちに検診に行きましょう」ということです。その方がきっと、安心安全のなかで、競技にもよりいっそう集中できますよ!

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一般社団法人スポーツを止めるなは『1252プロジェクト』として女子学生アスリートが抱える「生理×スポーツ」の課題に対し、 トップアスリートの経験や医療・教育分野の専門的・科学的根拠に基づき、 教育・情報発信を行うプログラムを推進しています。
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文/村上治子
構成/片岡千晶(編集部)


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