何が言いたいのかというと、たとえば夫婦で長年一緒にいても、知らなかった相手の一面に戸惑ったり、裏切られたと感じて悩む場面って結構あるじゃないですか。相手の心無いひとことに傷ついたり、とか。そういうときに、相手の言葉だけを表面的に捉えて一喜一憂するのではなくて、相手との「今」の関係性をみつめることが重要なんじゃないかと思ったわけです。言葉は平気で嘘をつけるけど、相手との関係性にはきっと、嘘がないから。たとえ嘘をつこうと思っても、態度には愛情や思いやりが滲み出てしまうものですもの。

もうひとつ、個人的にいちばん心に刺さったのは、岡田将生さん演じる高槻の長回しのシーンでのセリフ。「相手の心の中をすべて覗き見ようとしても、そんなことは不可能だ。僕たちにできるのは、せいぜい自分自身と向き合うことくらいだ」というような内容なのですが、これも結局、言葉には限界があるから、なんですよね。そしてどんなに相手の気持ちが知りたくても、人の心なんて、当人にだって本当にはわかっていないというのはままあることで。

私はライターという職業柄、何でも言葉でわかりやすく分析しようとする癖があります。恋愛でもその傾向が強く、言葉での明確な愛情表現を求めたり、綺麗に割り切れない感情が自分の中にあるとモヤモヤして気持ち悪かったり、と、その癖が相手のことも自分のことも苦しめることが多かったのです。

そんな私にとって『ドライブ・マイ・カー』は、愛する人との適切な距離感とコミュニケーションを見直すための“気付き”をたくさん与えてくれました。アラフィフにまでなって、今更何をやってんだ、という感じですが(汗)。

2021年7月の第74回カンヌ国際映画祭に出席した際の濱口竜介監督と出演者たち。左からソニア・ユアン、三浦透子、濱口監督、霧島れいか。 写真:ロイター/アフロ

余談ですが、音役を演じた霧島れいかさんがとっても素敵でした。調べたところ、現在49歳というmi-mollet世代。若作りしたりせずに成熟した色気を湛えているところが、どこかヨーロッパっぽい、日本ではなかなか珍しいタイプの女優さんだなと思いました。これから観に行く方は、ぜひその辺りもチェックしてみてください。

 


前回記事「「米VOGUEの表紙を飾った」最初の黒人モデル、69歳でランウェイにカムバック!」はこちら>>

 
  • 1
  • 2