生死とは別の意味で、何かが“還って、生まれる”という循環があるはず。


真奈は残されたすみれの荷物の中から、ビデオカメラを受け取ります。その中にはすみれが日常的に撮っていたものが残っていますが、真奈はいなくなってしまったすみれの知らない一面を見るようで、なかなか再生できません。実際に監督にビデオカメラを渡されたときの心境を浜辺さんに伺いました。

©️2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会

浜辺:私はあまりカメラ女子ではないんです。それこそ役作りの一環としてビデオカメラを一台渡されて、「今、撮りたいと思った瞬間を撮ってきてほしい」と言われました。その内容も、見せたくなかったら見せなくていいよと。私は普段からスマホでも写真を撮る習慣がほとんどないので、渡されたビデオカメラでも5つくらいしか撮らなかったです(笑)。自分の飼っているワンちゃんと、部屋から見える景色、あとは帰り道とか。

でも、どれも撮ったことに理由があって、ワンちゃんは人間よりも命が短くていつ急に病気になったり亡くなるか分からないですし、景色もちょうど引っ越しになりそうな時期だったので見納めになるかもという感じだったんです。私自身はそういった、“残しておかないと出合えなくなる、終わりが見えているもの”を撮りたいんだと、感じました。すみれは、このカメラを通して何かを探していたり、時間を留めておきたいというのがあったと思いますが、実際にカメラを回してみないと撮る人の気持ちは分からないのだなと、改めて思いました。

 

この映画のように、突然運命が変わってしまい、身近だった人がいなくなるということは、誰にでも起こり得る経験ですが、役柄でなく、もし自分自身に起こってしまったらどう向き合っていくタイプなのかをお聞きしました。

 

岸井:理由がわからず……ですよね? もしかしたら、理由がわかっている方がきっと楽なんだろうなと思っているんです。それは、「なんで?」「どうして?」というのを自分自身に問い続けられるから、です。「こうしておけば良かった」といくらでも自分を責めることができそうなんですよね。でも、この映画の場合は“消えてなくなる”ような感覚だと思うんです、きっと。そうなったときに何も責められないツラさというのがあって、でも私はきっと真奈みたいに誰かと愛情の比較をしたりはしないだろうなとは思います。もしかしたら、パッと見はすごく元気に振る舞っちゃうかもしれないですが、大事なものに対しては誰も入ってこないようにガードしちゃう癖が少しあるので、うちに籠っちゃいそうだなって、脚本を読んでそう思いました。

 

浜辺:私は事実だということはきっと理解すると思うんです。でも自分の心がある程度落ち着くまで実感も湧かないだろうし、いなくなった相手に関しての話もできると思うのですが、ある日突然「あ、いなくなったんだ」って思うような気がします。そういうことが起きたんだ、もうこの人はいないんだと思うまで、時差があるというか……。いつか本当に理解するときが来るまでは、ふわふわしたまま過ごしてしまいそうです。

『やがて海へと届く』の中では、冒頭、そして最後にアニメーションがとても効果的に使われ、すみれの存在においてとても重要な役割を果たします。

浜辺:私たちは最初にアニメーション部分を見せていただいたのですが、すでにその段階で色も音楽もついていて、かなり完成に近い状態だったんです。切なかったというか……、すごく感情が高まりました。そこから改めて映画の最後に使われていたものを拝見して、これが『やがて海へ届く』ということかな、と。最初に見たときの印象とは少し変わっていて、不幸せな印象は一切なかったです。すみれが最終的にあの結末を迎えること、あの事実自体が決して悲しいだけではなかったんだと思いました。“元いた場所に戻る”という感覚なのでしょうか。

岸井:私は冒頭のアニメーションを見たときは、「何が始まるんだろう?」と思いました。もちろん脚本をいただいたときに内容は把握していたのですが、映画のファーストカットがアニメーションというのが何だかとても特別な感覚で、それが実写へと繋がっていくことは想像はできていましたが、実際にスクリーンで観ると非常に滑らかでした。

そして、岸井さんは最後にこう付け加えてくれました。

 

岸井:映画の最後のアニメーション部分も、生の言葉や描写では伝えられないことをより心に届くようにつくられている感じがしたんです。美波ちゃんが言ったように、“どこかに帰っていく”ことが悲鳴と共に聞こえてくる場合もあると思うのですが、アニメーションになることでもっとずっと穏やかに自分たちの中に入り込んでいくような描写に思えて。

以前、“地球を構成する分子は地球が生まれたときから変わっていない”のだというような話を聞いたことがあるんです。人や動物は何世代にも渡って生死を繰り返していますが、その分子は変わらないのだと。何かが“還って”はまた“生まれ”るという、生死とは別の意味での“循環”みたいなものがあるんじゃないでしょうかね。最後のアニメーションには、そういう意味が込められている気がします。

 


岸井ゆきの Yukino Kishii
1992年2月11日生まれ、神奈川県出身。2009年女優デビュー。以降映画、ドラマ、舞台と様々な作品に出演。2017年映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』(森ガキ侑大監督)で映画初主演を務め、第39回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞受賞。2019年『愛がなんだ』(今泉力哉監督)では、第11回TAMA映画祭最優秀新進女優賞ならびに第43回日本アカデミー賞新人賞を獲得。そのほか近年の主な出演作には、映画『99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE』(21/木村ひさし監督)、ドラマ「#家族募集します」(21/TBS)、「恋せぬふたり」(放送中/NHK)などがある。

 


浜辺美波 Minami Hamabe
2000年8月29日生まれ、石川県出身。2011年、第7回「東宝シンデレラ」オーディションニュージェネレーション賞を受賞し、 同年『浜辺美波~アリと恋文~』(三木孝浩監督)で映画主演を飾る。2017年には映画『君の膵臓をたべたい』(月川翔監督)で第41回日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめ数々の賞を受賞。21年には、20歳を迎えた記念に『浜辺美波 写真集 20』(講談社)を発売。近年の主な主演作は、『映画 賭ケグルイ 絶対絶命ロシアンルーレット』(21/英勉監督)、放送中のドラマ「ドクターホワイト」(CX)など。


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<浜辺美波さん着用>
ニットワンピース¥53900、カーディガン¥63800(ともにmalamute╱BRAND NEWS)

問い合わせ先/
BRAND NEWS tel. 03-3797-3673

<作品紹介>
『やがて海へと届く』
4月1日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー!

(C) 2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会

キャスト:岸井ゆきの 浜辺美波/杉野遥亮 中崎敏/鶴田真由 中嶋朋子 新谷ゆづみ/光石研
監督・脚本:中川龍太郎
原作:彩瀬まる「やがて海へと届く」(講談社文庫)
脚本:梅原英司 音楽:小瀬村晶 アニメーション挿入曲/エンディング曲:加藤久貴
エグゼクティブ・プロデューサー:和田丈嗣 小林智 プロデューサー:小川真司 伊藤整
製作:「やがて海へと届く」製作委員会 製作幹事:ひかりTV WIT STUDIO 
制作プロダクション:Tokyo New Cinema
配給:ビターズ・エンド ©2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会
公式HP:https://bitters.co.jp/yagate/
公式ツイッター、公式インスタグラム:@yagate_movie

 


<岸井さん>
ヘア/新宮利彦 メイク/秋鹿裕子
スタイリスト/Babymix

<浜辺さん>
ヘアメイク/寺田祐子
スタイリスト/瀬川結美子
撮影/Junko Yokoyama(Lorimer management+)
取材・文/前田美保 構成/川端里恵(編集部)