そのブランドイメージを打ち出すため、マイクは従業員を容姿のみで採用。実際に名門大学のソロリティやフラタニティ(厳しい審査を通らなければ所属できない社交クラブ)に属する白人のリア充男女ばかりをスカウトする、という徹底ぶりでした。つまり、アバクロが売っていたのは「アバクロを着たら、学校でいちばんイケてる男女みたいになれる」というイメージそのもの。良家の子女的な品の良さを保ちつつ、あざとく肌を見せちゃう不良っぽさも持ち合わせている。これってアバクロのメインターゲット層である18〜22歳にとって、最もクールな人物像ですものね。

このイメージを絶対的なものにしていたのは、カタログを撮影していた巨匠フォトグラファー、ブルース・ウェーバーの存在。マッチョで彫刻のような肉体美を持つ男子大学生たちをモデルにして撮った一連の写真は、アバクロの世界観を見事に表現していましたが、実はこれはゲイの白人男性にとっての理想郷を表したものだった、とドキュメンタリーは伝えます。

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2008年当時、米カリフォルニア州のアバクロンビー&フィッチ店舗。写真:AP/アフロ

当時20代だった私はそんなことには気づかず、美しい男女のティーンエイジャーが半裸になって自然の中で戯れている写真を、いつもうっとりして眺めていました。「白人で容姿が美しく生まれるって、きっとすごい楽しいことなんだろうな〜」と無邪気に思いながら。

 

CEOのマイクが白人主義で、有色人種の従業員たちを差別していたこと。従業員の評価は業務内容ではなく容姿により段階別に判断されていたこと。インタビュー記事で「我々は学校で人気のないような生徒や、太った人はターゲットにしていない」などと発言していたこと。

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ショッパーにも男性のヌード写真が(写真は2008年)。写真:AP/アフロ

今の時代には考えられないような排他主義とルッキズムが次第に明るみに出るようになると、それに抗議するデモや不買運動が行われ、2015年には消費者アンケートにより、全米で最も嫌われるブランドとなってしまうのです。2017年にはブルース・ウェーバーが男性モデルたちにセクハラで訴えられるという事件も起き、すっかりアバクロは若者たちを搾取することによって成り上がったブランドというイメージがついてしまいました。

その成功と衰退までを、関係者たちのインタビュー映像によって描いた本作品。最初にアバクロを買収したLブランズはヴィクトリアズ・シークレットを成功させた会社で、CEOのレスは未成年に売春を斡旋した罪で起訴されていたジェフリー・エプスタインとの関係も取り沙汰されていました。ヴィクシーモデルたちもオーディションの際にセクハラがあったことを告発していることを考えると、両者の華やかなブームの裏には、深い闇が存在するのだと思わせられます。

ヴィクシーとアバクロ。一時代を築いたふたつのブランドは、どちらも人々の選民意識をくすぐることで頂点に上り詰め、しかしその排他主義が時代にそぐわなくなったことで、見向きもされなくなってしまった。人を商品のように扱うマーケティング手法も怖いですが、そのブームにまんまと踊らされていた自分が、実はその闇を広げることに加担していたのではないかと思うと、その方が怖い。大人になった今、消費者側も選択に責任を持たなければならないのかも。そんなことを考えさせられる映画でした。

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