1990年代以降、グローバル化の進展によって、地域に関係なく多くの国が経済成長を実現し、食生活が一気に豊かになりました。その結果、食材の消費が増え、自国産の穀物では足りなくなり、多くの国が輸入に頼るようになったのです。加えて、世界各国で穀類の需要が増大したことから、農業にも高い生産性が求められるようになり、耕作条件が悪い国では、コストがかかりすぎて、効率よく農作物を作ることができなくなってしまいました。

2022年4月24日、すでに深刻な食糧危機に陥っているイエメン・サナアで、慈善団体による食料援助を受ける市民。写真:ロイター/アフロ

一般的に経済水準が低い国ほど食糧危機が発生しやすいのは事実ですが、今、危機が報道されている国の経済水準はまちまちです。イエメンやレバノンはかなり貧しい部類に入りますが、エジプトやイラクといった国は、先進国とは差があるものの、それなりの経済水準です。

 

食糧の確保が難しくなっている国の多くは、経常収支が赤字もしくは赤字基調となっており、外貨が不足しやすい状況にあります。外貨が不足すると、輸入に支障が出てきますから、自給率に関係なくモノ不足やインフレが発生しやすくなるという仕組みです。つまり食糧不足というのは、貿易の力不足によって引き起こされる面が大きいということが分かります。

日本は今のところそれほど大きな影響は受けていませんが、一連のニュースを背景に、日本も食糧の自給率を高めるべきとの声が大きくなっています。イザという時に食糧を確保できることはとても大事なことですから、自給率を高めることは重要ですし、筆者もそうした政策を進めていくべきだと考えます。

しかし中東の例からも分かるように、一定以上の生活水準がある国にとって、自国で消費する食べ物をすべて自国で賄うのは不可能です。コメにしても、その生産には石油が必要となりますから、エネルギーの供給が止まれば、コメの生産もままなりません。

本当の意味で、食糧の安全保障を確立するために必要なのは「経済力」、とりわけ重要なのが「ビジネス」の力です。

単に経済水準が高くお金があるだけではダメで、企業活動が活発で、世界の貿易や物流に影響力を行使できる、いわゆるビジネス界での力がモノを言うのです。

例えば米国は世界でも有数の食糧生産国ですが、一方で食糧ビジネスにおける影響力も世界最大です。世界における穀物の売り買いは、穀物メジャーと呼ばれる米国を中心とした巨大企業が市場で絶大な影響力を発揮しており、その気になれば世界中から必要な食糧を自由に買い付けることができます。
 
幸いなことに日本の商社の中には、世界の食糧市場においてそれなりのシェアを持っているところもあります。こうした経済活動、ビジネス活動を広げていくことこそが、本当の意味で私たち国民の安全を守るのです。 
 

 


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