SNSは「最新技術を使った中世」と化している


最近はあちこちでメタバース語りをする人に出会います。全く規制のない新たな市場での先行者利益をめぐって、競争が熱を帯びているようです。儲け話を持ちかける詐欺もあるとか。早い者勝ち競争に、目の色を変えている人も少なくないのですね。

 


メタバースを「新大陸」に擬える言い方もあります。人が「新大陸」を“発見”した時に、なにが起きたか。過去を振り返ると、どの「新大陸」でも例外なく、持ち込まれた疫病と虐殺によって、先住民が滅ぼされています。新たな住民同士も縄張りを巡って争い、搾取と支配の上に富を築く者が現れました。ある程度秩序ある世界ができるまでには多くの犠牲が払われ、長い時間がかかっています。

仮想空間は、物理的な制約によってこれまで目に見える形にできなかった人間の脳内世界を、デジタル技術を使って可視化したものとも言えます。いわば私たちの脳みその中に元からあった既存の世界が繋がって大陸として姿を現すようなものですね。つまり歴史上の「新大陸の発見」同様、それは決して「新しい」ものではないのです。

とするとメタバースの先住民は、私たち自身です。既存の秩序を自ら壊し滅ぼそうというのが「新しい世界を作る」ことなのだとしたら、これまでの近代化の歩みはなんだったのでしょう。そうならないような形で、メタバースを開拓しなければなりません。

今までも実際にそんなことが起きています。新しい民主的な言論世界と期待されたSNSは、今や流言飛語や罵詈雑言が飛び交い、それで人が死においやられることすらある「最新技術を使った中世」と化しています。別にSNSが人を野蛮にしたのではありません。私たちはもともと頭の中ではそういうひどいことやいい加減なことや下品なことや愚かなことを呟いたり考えたりしていたし、噂を信じて人を血祭りに上げるような浅はかさと残酷さを持っています。それがSNSによって全世界から見える場所で野放しになったのです。

日本で放送法の適用を受けないインターネット放送局が登場したときにも「新しさ」と「自由」を標榜して、昭和のバラエティ番組かと目を疑うような女性蔑視やハラスメントを娯楽にするようなコンテンツが登場した、というのも記憶に新しいところです。

新天地では、人は先祖返りします。内心密かに進歩を拒んでいた欲望が全開となるのですね。そこへきて新たな巨大デジタル無法地帯の出現となれば、不安を禁じ得ません。