「松たか子を見てごらん、意味はわかってなくてもまず大きな声を出している」


松:上川さんはおもしろいことが好きなかたで、ふだん、誰よりも早くおもしろいことを見つけてツッコむんですよ。そのツッコミが本当に速い!
ところが、お芝居では、落ち着いてらしてまわりを受け止めてくれるんです。私は、お芝居のなかでなんとかふだんのコンマ何秒速い上川さんを引きずりだしたくて(笑)。でも絶対守るんです、守り抜くんです、いい意味で。考えてみたら、私は芝居のリアクションがちょっと速いほうなので、上川さんとふたり、お互い素早くツッコみまくっていたら、芝居がうるさくなってしまいそうですよね。だから上川さんがペースを崩さないことによっていいバランスを保っていたのかもしれません。

 

黒い瞳をおかしそうにきらきらと輝かせる松さん。おもしろいことに目がないようです。去年、主演した松尾スズキさん演出の舞台『パ・ラパパンパン』でも小日向文世さんと側転合戦(?)をやって大いに笑わせてくれました。

松:小日向さんが稽古場で自主的に側転をやりだしたんです。一回試してみただけかなと思ったら、毎回やるのでこれは本気だと感じ、私もやりたいと思っていました。ふたりが左右から側転をやり出して交差しはじめたら楽しそうじゃないですか(笑)。松尾さんに「松さんもやりますか」と聞かれたかどうか記憶は曖昧ですが、たぶん、私がやりたそうに準備しはじめていたからやることになったのではないかと思います。

 

今、何が必要とされているか瞬時に察知する松さんの聡明さ。でも松さんは「野田さんには『たかちゃんは何も考えずにセリフを言っている』と言われますよ」と笑います。

松:『Q』のときに稽古場でみんなが聞いている前でそう言われたんですよ。それは、初舞台の広瀬すずちゃんや演劇経験が少ない志尊淳くんのテンションを上げようという狙いもあったと思います。つまり、とにかくまず声を大きく出せと、「松たか子を見てごらん、意味はわかってなくてもまず声を出している」と。確かにそうで、理屈で考えず、動いてみてわかることもあるんですよね。例えば、野田さんの美しい詩的なセリフを言うときも、意味を考えて言うよりも、言葉を読んだときの気持ちがざわざわすることを大事にしています。舞台で思いきり走り回って大きな声を出したあと、大事なセリフを言うとき、自分がばらばらになっていくような不思議な気持ちになっていくんですね。思いがけない感情が生まれる瞬間、それが演劇では大事な気がしています。