ところが日本では、こうした対等な人間関係でのマナーについてはうるさく言われず、一方で、上下関係を示す場面でのマナーについては異常なまでに厳しく指摘されます。先ほどのお辞儀の角度やビールのお酌、名刺の位置、リモート会議はすべて、エラい人に対する行動を厳しく制限する内容です。

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つまり日本において「マナー」と呼ばれるものは、本当の意味でのビジネスマナーではなく、どちらが上でどちらが下なのかを示す身分社会的な行為と考えた方がよいでしょう。

 

上下関係を過剰に意識し、それを常に明示的に示す必要があるという社会的要請が、謎マナーの正体だと筆者は考えます。もし、そうであれば、仮のひとつの謎マナーをやめたとしても、次の謎マナーがすぐに登場して来ることは容易に想像できます。なぜなら、社会を構成する一定割合の人が、上下関係の誇示を強く求めており、それがビジネスマナーという形で具現化しているからです。

謎マナーを本気で撲滅したいと思うのであれば、「下の人は上の人に媚びへつらわなければならない」という風習そのものを断ち切る必要があるでしょう。そして、会社の上司というのは、あくまでも機能として指示を出せるだけであり、全人格的にエラいというわけではない、という近代的価値観を社会全体で共有する必要があります。

会社で高い立場にある人の意識改革が必要なのはもちろんですが、下の人たちの意識も変えなければなりません。実は、マナーを押しつけられている側の人たちの中にも、自分だけが、そうした謎マナーをフル活用して、上司に取り入りたいと考える人が一定数、存在しているからです。

会社というのは仕事をする場所であり、ビジネスパーソンは仕事での成果が強く求められます。マナーについても、本来はその延長線上に存在すべきものであり、成果を上げるという視点でのマナーならば、強く求められてもよいはずです。

上司は、お酌やお辞儀の角度についてうるさく言うのではなく、事前に報告もなく締め切り日になってから「まだ資料ができていません」と言ってくる部下に対しては、マナー違反であると厳しく注意すべきでしょう。同様に、取引先とのアポイント設定において、先方に「いつでもいいです」と言っておきながら、相手が「では〇月〇日はいかがですが」と返してくると、「ちょっとその日は……」などと返答している社員がいたら、それもマナー違反ですから、すぐに改善させるべきだと考えます。
 

 


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