救急隊の到着から5分後、熊本さんを乗せた救急車は救急救命センターに到着。蘇生治療が施され、心肺停止から50分後に熊本さんの心臓は人工心肺とつなげられました。ICUの中では、体温を32度まで下げ、動物の冬眠のような状態の熊本さんに、ダメージを受けた脳を回復させるための治療が続けられています。

何とか一命は取り留めたものの、極めて危険な状態。駆けつけた家族に、医師から熊本さんの心停止の理由と、到底受け止め難い重い事実が告げられるのでした。

 
 
 


熊本さんにはなぜAEDが効かなかった?

AEDを4回受けても、熊本さんの心拍が戻らなかったのはなぜでしょう。本書を監修した鈴木先生に解説していただきました。

「そもそもAEDは心室細動、心室頻拍を治療するための器械です。胸に貼られた電極パッドを通して心臓の状態を自動診断し、心室細動、心室頻拍と判断した場合だけ、電流を流す指示を出します。心室細動以外の不整脈や心停止の場合は、誤ってボタンを押しても作動しないようになっています。また呼吸や意識がある場合にはAEDを装着してはいけません。

では心室細動とは何かというと、心臓を規則正しく動かしている電気信号に異常が起き、けいれんやそれに近い状態になること。心臓から血液が送り出されなくなり、心停止の状態になってしまうため、直ちに命にかかわります。心室細動は、心臓が原因で起こる突然死の原因のうち約8割を占めているといわれています。

AEDを使っても、心室細動に必ず効果があるとは限りません。もともと心臓が弱っている人の場合や、電気ショックを行うのが遅れたときなどは、使っても救命できないこともあります。しかし、使わなければ助かる可能性はさらに低くなりますし、使って状態が悪化することもありません。心停止した人を見つけたらすみやかに、できれば3分以内に電気ショックをかけるのがよいとされています」

 

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『山手線で心肺停止! アラフィフ医療ライターが伝える予兆から社会復帰までのすべて』
熊本美加・著 上野りゅうじん・漫画 鈴木健之・監修 1320円 講談社

毎年の健康診断では「問題なし」だったアラフィフの医療ライターが、ある朝、山手線で心肺停止に。予兆はなかったのか? その時、生死を分けたものとは? その後、高次脳機能障害となるもリハビリを経て仕事復帰するまでをまとめた「蘇りルポ」をコミック化。主治医の監修付きで実用書籍にしました。自分と大切な人のために、読んでおきたい一冊です。



熊本 美加
東京生まれ・札幌育ち。医療ライター、性の健康カウンセラー。大学卒業後、広告制作会社などを経てフリーライターに。更年期ウイメンズ&メンズヘルス、性感染症予防・啓発、性の健康についての記事を執筆。2019年に電車内で心肺停止で倒れ救急搬送され蘇る体験以後、救命救急、高次脳機能障害、リハビリについても情報発信中。



上野りゅうじん
2017年「うちのへそ曲がり!!」でデビュー。ママスタセレクト漫画・記事挿絵などを担当。『オカン DAYS』(講談社)、『ママのうつ病をなめてたら死にそうになりました』(ぶんか社)が発売中。漫画で参加した『マンガでわかるポイント投資 100ポイントあったら「株」を買いなさい!』(安恒理著、講談社)、『女はいつまで女ですか? 莉子の結論』(KADOKAWA)がある。


漫画/上野りゅうじん
構成/山崎 恵

 

 
 

第1回「山手線で心肺停止!50代医療ライターが見逃した2週間前の予兆「毎日同じ時間に、同じ場所が」」>>

 
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