女性が出産後、非正規社員とて働くケースが多いことには、主に3つの理由があると考えられます。1つめは、家庭内や家族間で家事や子育てなどの分担ができていないこと。2つめは、保育施設などインフラの整備が不十分で、働きながら子育てをするのが難しいこと。3つめは日本企業の雇用制度が硬直的で、仕事に対して賃金を支払う、いわゆるジョブ型雇用になっていないことです。

イラスト:Shutterstock

家庭内の問題は家族で解決してもらうよりほかありませんが、インフラについてはすべて行政が解決できる問題です。一部の地域では、保育施設の増設に反対する人たちがいて、整備が進まないといった問題も発生しています。子育てインフラを増強することは、ほぼ全国民にとっての総意なはずですから、反対意見が出ている場合には、なぜ反対なのか、代替案として何が考えられるのか、オープンな議論が必要でしょう。

 

これまでの日本企業は雇用制度の改革に激しく抵抗していましたが、近年、ジョブ型への移行を進める企業が増えてきました。仕事に対して賃金を支払う制度が定着すれば、職場復帰した女性の賃金が下がるという問題はかなり改善されそうです。

先ほどの報告書では、女性の管理職比率についても公開するよう求めているのですが、女性の管理職登用の積極化については逆差別になると反対する意見もあるようです。確かに女性の管理職比率を一定以上にするよう強制した場合(例えばクオータ制)、一部でそうした弊害が発生する可能性はゼロではありません。

しかしながら、企業というのは本来、合理的に行動するはずですから、しっかりとした競争環境が維持されれば、逆差別の問題について心配する必要はほとんどありません。もしスキルに応じて適切に賃金を支払うという慣行が当たり前のものとなり、正社員と非正規社員との間の賃金格差が消滅すれば、必然的にやる気のある人物は、より積極的に仕事に取り組むようになるでしょう。結果として、相応の実力を持った人は、男女に関わりなく十分な成果を伴う形で、昇進を実現することになります。つまり、機会の平等と適切な競争環境さえしっかり整えれば、不相応な人が昇進するという問題は発生しにくいのです。

一連の問題においてもっとも重要なのは賃金格差です。同じ仕事をしているにもかかわらず、賃金に格差が生じていることには経済的合理性がありません。ここを解消することこそが、全体の問題解決の早道になると考えるべきでしょう。
 

 


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