生殖機能はこうして静かに幕を下ろす


診察台の脇のモニターに白黒の画像が映し出され、先生が丁寧に説明してくれます。おなじみの子宮の断面図は、中華料理の花巻にそっくりです。

「ミレーナは正しい位置に入っていますね。画像で見る限り、子宮にも異常はありませんよ」
「そうですか、よかったです!」
「ホルモンバランスが変化しやすい時期ですし、出血については心配する必要はないでしょう。では卵巣を見てみましょうね」
先生は超音波の棒を動かして卵巣を探します。
「はい、こっちが右側。異常はないですねー」
と画像を止めて、点線で直径を表示してくれました。しかしそこにはこれまで見慣れていた我が卵巣とは違う、初めて見る姿が!
「小さい……」
「そうですね、1センチくらいかなあ、左側も異常ないです、ちょっとこれも見づらいけど、ここにほら」

それは宇宙の果てで起きた超新星爆発の残像によく似ていました。体腔の闇の中に、ぼんやりと浮かび上がる白い霞の塊。
以前映し出されていたのは、膜に囲まれたくっきりと黒い球でした。卵胞がぷっくり膨れた、排卵を待つ卵巣の姿です。直径も2〜3センチありました。更年期に入ったとはいえまだ自力のホルモンも頑張っていて、ミレーナで排卵を止めていても、卵は育っていたのです。

それが今回は、白い星屑の集まりのような、小梅干のような姿で、ひっそりと映っています。おお、ついに私の卵の蔵は閉じたのか。40年近くもの間、毎月卵子を吐き出していた卵巣が、お役目を終えて萎んだのだな。そう気づいた瞬間、穏やかな感慨が湧き上がりました。口をついて出た言葉は
「ああ、人体……!」

 


老いもまた、命の営みです。生殖機能はこうして静かに幕を下ろす。その姿を目の当たりにして、切なさと感動で胸が一杯になりました。ありがとよ、卵巣。おつかれさま!

自分の体を知ることは、命の不思議と出会うこと。閉経は、あの煩わしい生理からの解放でもあります。ホルモンの変化に振り回される人生とおさらばできるのです。そんな人生の新たなステージへのソフトランディングに伴走してくれるのが、婦人科の先生達なのですね。

初めて超音波検査の画面に映った自分の子宮を見た時のことを、今でもはっきり覚えています。「え?子宮って中身空っぽの風船じゃないんだ、花巻そっくりじゃん!ほんとに卵のためのお布団みたいだなあ」28歳の時でした。あれから20年あまり。
女性が自らの性を積極的に語ることはタブーとされてきたけれど、私の体は私のもの。その営みと向き合い、この目で見届けるのは、自分を大切にし、命に感謝することだとつくづく思います。

人体ってすごい、尊い。これからも先生方と一緒に、変化を見守りたいです。
 

 


前回記事「メタバースへの期待と不安。「欲望渦巻く無法地帯」にしないために」はこちら>>

 
  • 1
  • 2