三谷幸喜は、人の「窮地」を描く天才


この3人の最期から見てもわかる通り、三谷幸喜は「窮地」を描くのが抜群にうまい。ただ単に命を落としたから衝撃的なわけではないのです。逃げ場を奪われ、もがく手を折られ、ほんの少しタイミングを誤ったことにより、引き戻せないところまで追い込まれる。人が「窮地」に陥るまでを、一枚一枚オセロを裏返していくように描いていくから、いつの間にか真っ黒になった盤上に視聴者は言葉を失うのです。

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そして、実はこの「窮地」の名人であることが、三谷幸喜の喜劇作家としての強みでもあります。シリアスとコメディ。作風は正反対かもしれませんが、コメディもまた人が追い込まれて困っているのを見て笑うもの。特に三谷幸喜の喜劇はそれが顕著です。

 


三谷幸喜の喜劇の型は、「窮地」に追い込まれたことから咄嗟に嘘をつき、その嘘がまた「窮地」を呼び込んで、どんどん泥沼に転がり込んでいくというもの。そうやって狼狽している姿が笑いを誘うのです。三谷幸喜の代表作である舞台『君となら』もそうですし、ドラマ『合い言葉は勇気』や映画『ザ・マジックアワー』もその典型でしょう。それこそ最も有名な三谷作品である『古畑任三郎』も紳士的ながら底意地の悪い古畑の推理によって犯人が「窮地」に追い込まれていく姿が見どころ。切羽つまったときに見せる人の本性についニヤニヤとさせられてしまうのです。

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喜劇と悲劇は表裏一体。そのベクトルを笑いに向ければ喜劇になるし、人間の暗部に向ければ悲劇になる。だから喜劇の得意な三谷幸喜が、権力争いによって巻き起こる見るも地獄の政治劇にばっちりハマるのも至極当然の話。そして悲劇ほど時代に左右されない鉄板ジャンルはありませんので、歴史に詳しくない僕が見てもこの上なく面白いわけです。

物語は、義経の死を経て新たなフェーズへ。次の到達点は、おそらく頼朝の死でしょう。一時代を築いた英雄でありながら、謎の多い頼朝の死を三谷幸喜がどんな解釈で描くのか。どうせなら「もうやめて!とっくに視聴者のライフはゼロよ!」というところまで「窮地」に追い込んでくれることを期待しています。

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<番組紹介>
大河ドラマ「鎌倉殿の13人」

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<地上デジタル>
毎週日曜、NHK総合にて午後8時~
※再放送は毎週土曜、午後1時5分〜
<BSプレミアム・BS4K>
毎週日曜、午後6時~
※放送予定は変更される場合があります。最新情報は番組表をご確認ください。

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文/横川良明
構成/山崎 恵

 

 

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