言葉が話せなくても、本人の気持ちを尊重する


――認知症の方への声がけに厳密なルールはないかもしれませんが、克子さんが晋さんに対して禁句というか、なるべく言わないように心がけていた言葉はありますか?

克子 やっぱり、「認知症」っていう言葉ですよね。夫が認知症を公表して、テレビに出演させてもらったあと、親戚のおばさんから電話があったんです。「晋さんどうしたの? この前テレビに出てたわよ」って。認知症のことはお義姉さんとか近しい人には知らせていたけれど、親戚のおばさんにはわざわざ言ってなかったんですね。そのとき、電話の横で晋さんが寝ていたのもあって「いえいえ、元気ですよ。晋さんは」って話して。それで後日、「本当はこうなんです」っていう手紙を書いて出したりしましたね。

若年性アルツハイマーとわかる前、原因不明の不調に悩んでいた晋さんがつけていた日記。密かにたくさんの漢字を繰り返し練習していた。(撮影:小川光)

――電話で説明せずに、お手紙で報告されたんですね。

克子 聞いているかもしれないですからね、本人が。「おばさんに僕の認知症のこと伝えてる」って傷つくかもしれないですし。しゃべれるときもあったから、本当に伝えたかったら自分で言ったと思うんですど、絶対に言わなかったから。自分で報告する分には「どうぞどうぞ」って思うのだけど、自分が嫌なことは、人には言われたくないでしょうからね。誰だってそうですよね。

 


認知症は「恥ずかしい病」じゃない


――やはり認知症は、人には言いづらい病気だと感じますか?

克子 昔はことさら、そういうところがあった時代でしたよね。隣近所にも言わない。外になんか出さない。認知症は恥ずかしいというような雰囲気が。近所の子どもたちに夫が「バカ、バカ」って言われたこともありました。本当にあのときは夫は、悲しそうでしたよね。今はその頃に比べたら、だいぶよくなっているんじゃないかしらね。誰もが罹るかもしれない病気ですから。認知症が恥ずかしいなんてことはね、絶対にないですよ。