夫の行き先も分からないまま、別居開始


このとき、ご主人はかなり驚いた様子だったそう。

ただ、当時アキコさんが想定していたのは、1週間程度お互い距離を置いて冷静になりたいという、あくまでライトな別居。ご主人は職業柄出張も多かったため、近場のホテルにステイケーションをしてくれればお互いに気分が落ち着くと考えたのです。何より、両親の顔色を伺うようになってしまった娘さんの怯えた様子が心配だったと言います。

けれどご主人は「いや、話し合おう」と抵抗し、向き合えば再び激しい喧嘩に発展。

その度に「だから少し距離を置きたいの」とアキコさんが訴える流れになり、ある日ついにご主人は家を出て行きました。

「その日も激しい喧嘩の末、夫は小さなリュック一つで家出のように出て行きました。お互い感情的になっていたので、無言のまま玄関のドアが閉まる音がして、このときから、夫の行き先も知らないまま別居が始まりました」

もちろん、アキコさんはこんなふうに無計画に別居を開始するつもりはなかった。けれどこのとき夫婦は一触即発の戦闘状態で、冷静に話し合うことがどうしてもできなかったそうです。

「夫が出ていってしばらくは、ようやく深く呼吸ができるような清々しい気分を味わっていました。幼稚園も少しずつ再開して、世間もだんだん元通りになって、夜も眠れるようになってきて。ああ、限界だったんだなとしみじみ思いました。ただ、この別居が1年にも及ぶことになるとは、さすがに思っていませんでした」

 

かなり唐突な別居のように思えますが、現在振り返っても、アキコさんにとってこの別居期間は必要なものだったと考えているそう。

たしかに話を聞く限り、様々な不遇が重なりすぎて、おそらく少しの距離を置かない限りはどうにもならず、無理をすればアキコさん夫婦の関係はもっと悪化したように思えます。

「コロナ離婚」という言葉が流行った中で、別居だけに留まることができたのもまだ良い方なのかもしれません。

 

突然の別居・父親の不在も大変なことには変わりありませんが、結果として現在家庭環境が落ち着いているなら、感情的だったとはいえ別居は正解だったのでしょう。

また改めてコロナ禍の状況を振り返ると、突然の在宅勤務開始に商業施設の休館、自宅保育など、特に子持ち家庭への打撃は計り知れません。ある意味で夫婦の絆が試されたこの状況で、それを乗り越えたアキコさん夫婦は素晴らしいと思いますが、実は、想定外に長引いてしまった別居を解消するまでには再び何度も壁にぶち当たってしまったそう。


後編では、別居を前向きに捉えていた妻とは逆に、冷静になるどころか怒りが増幅していたご主人との関係修復について語っていただきます。
 

構成・文/山本理沙