「あの子が息子を大切にしないから……」


「あれは3年ほど前、下の子がようやく小学校に上がった頃です。独身時代は証券会社で働いていましたが、妊娠・出産を機に義両親が育児に集中することを勧めてきたこともあり、辞めてしまいました。ようやく二人とも小学生になったタイミングでパートを探し、週3日働き始めた頃です。コスメブランドのビューティアドバイザーとして働く親友が、話があるというので仕事の終わりに集合しました。

すると、『今日、うちの売り場に千里のお姑さんが来たの。偶然を装っていたけど……あれは絶対、わかってて来たのよ。結婚式でお話ししたとき、私、あそこで働いてるって言ったから覚えてたんじゃない? それでね、ずうっと千里の悪口を言ってたの。あの子が卓也を主として大事にしないから拗ねている、とかなんとか。息子いくつだよ、って思いながら流しといたけど……何かあった?』って。

それはもう、青天の霹靂です。ソファにどっかり座ってスマホやPCしか弄らない夫を、できるだけ責めないように頑張ってきたのに……。しかも、私の親友にそんなことを言うなんて、きっと私の耳に入るのを期待してのことでしょう。間接的に叱責しているとわかると、喉の奥が焼け付くような怒りが込みあげてきました」

 

千里さんは、ついに堪忍袋の緒が切れて、その夜に卓也さんに不満を爆発させてしまったのです。義母がそのような行動に出るからには、夫が告げ口をしているに違いないと考えました。また、親友に「仕事にかまけて夕飯のおかずが3品しかない」「二世帯住宅の家周りをキレイにするのはいつも私」などと言われ、情けなく、悔しい気持ちを抑えられませんでした。

「お義母さんに私への不満を言っているの!?」と詰め寄ると、彼は心外だといわんばかりに否定。「母親が察して勝手に動いただけ、自分は関係ない」と言い張るのだとか。

 

ここで千里さんはおおいに混乱。夫という人が、ますますわからなくなったと言います。

夫が自分の母親さえも悪者にして、自己弁護をする様子は衝撃でした。彼が庇っているのは、母親でも、もちろん妻の千里さんでもありません。いつだって自分自身なのです。

すべては我が身可愛さなのでは。そう考えると、さまざまな辻褄が合うような気がしたという千里さん。義母の非常識な行動にも呆れましたが、それについて、庇うでも非難するでもない夫の行動が、一番冷たいと思ったそう。

モヤモヤしたものを抱えながら、しかしそれでも千里さんは前を向こうと努力します。親友に相談すると、「自分が変われば、相手も変わるかもしれないよ。もう少し頑張ってみたら」とアドバイスをされたこともあり、できるだけ会話をしたり、美味しい食事を作ったり、前向きに関係を構築しようとしました。家庭はチームプレーであり、意志なくしてはスムーズに運営するのは難しいのも事実。非常に立派で建設的な試みと言えるでしょう。

しかし、その努力はまたしても裏切られることになりました。

なんと、卓也さんは、ある日二世帯住宅を出て行き、その夜から帰らなくなったのです。浮気相手がいて、その人のマンションに「避難」しているとわかったのは1週間後のことでした。

後編は、夫婦として最大のピンチを前に、コミュニケーション不全と思われた夫との関係を千里さんがどのように着地させたのかを伺います。

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取材・文/佐野倫子
構成/山本理沙

 

 

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