ヤクルト1000は効く? 効果は? 副作用は?


山田:この研究ではお腹の不快な症状スコアのほか、客観的な指標としてコルチゾールの値も測っています。
ただ、研究対象者が20数名ずつなので、この人数を根拠に、本当に値が下がったと言えるかは疑問です。

さらに、この研究はあくまでお腹の不快な症状スコアの差を見るために設計されたものであり、コルチゾールや他の値について見るためには設計されていません。
そうすると、そこで出た差が偶然である可能性や、被験者に偏りがあったことによる誤差ということもありえます。
このように、多方面から見ると少し疑問が残る研究でもあるのです。

 

碓氷:なるほど……。

山田:ヤクルト1000の効果を否定したいわけではありませんし、この論文の価値は極めて高いです。ただ、どんな研究にも多くの限界があり、いくつもの研究が積み重なってはじめて真実に近づくのです。
ですので、この研究だけで「ヤクルト1000は、本当にストレスに効果がある」と結論付けるのは難しい、というのがこの論文を見た私の感想です。

碓氷:被験者の人数が20数名というのは少ないと思いましたが、いかがですか?

山田:被験者の人数というのは、示したい結果の差を見るために必要な人数であれば、問題ありません。この論文には明記されていませんが、お腹の症状の差を見るのに十分な人数が20数名と算定されたのであれば、妥当です。ただ、他の結果を見るためには、少ないかもしれません。
そして、繰り返しになりますが、食品でランダム化比較試験をした価値はとても高いです。

碓氷:なるほど。研究結果の内容を問わず、食品でランダム化比較試験をすること自体、価値が高いということがよく分かりました。新里さんも、ヤクルト1000を飲んでいましたよね。効果の体感はいかがでしたか?

新里:もともとよく眠れる体質なので、睡眠の質の上昇効果を体感したとは言えないかもしれません。

碓氷:睡眠不足の人が、しっかり睡眠できたと体感した話が、SNSで話題になりましたよね。

新里:そこが大ヒットの要因の一つかもしれませんね。

山田:そうでしょうね。医学的な根拠がどこまであるかと聞かれると難しいですが、ヒットの背景には「社会的な要素」が大きいのではないでしょうか?

また、あらためて「何事にも副作用がある」という言葉を覚えておいていただきたいな、と思います。例えば、先ほどご紹介した研究も、8週間という期間で終了しています。
ですので、少なくとも20数名のレベルでは、8週間飲んでも問題がないことはわかっているかもしれません。ただ、1年間飲み続けて、本当に健康に弊害がないかと言われたら、それは私にも、誰にもわからないのです。

例えば、ヤクルト1000を飲み続けた人の方に、より多く糖尿病の発症が増えたと言われても、驚かないかもしれません。
どんなものも傾倒しすぎると害が起こり得る、ということも頭の片隅に残していただきたいと思います。
その範囲で自分の満足や幸せに繋がるのであれば、飲んでいただくのがよいのではないでしょうか。

碓氷:どんなものも、傾倒し過ぎると害が起こり得る、ということは覚えておきたいですね。本日もありがとうございました!
 

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写真/shutterstock
構成/新里百合子
 

 


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