夫は、『お金を持ってきてくれる、隣のおじさん』


「夫に、正直に胸の内を話しましたが、返ってきた言葉は『……話しても分からないよ。もうあっちと別れたんだから、千里の思い通りになったでしょ』。

『私の思い通り』は、もちろんそんなことではありません。居心地のいい家庭、問題が起きたとき、相談しあえる夫婦です。ああ、この人と分かり合えることはもうないのかもしれない。そこから、気持ちが一層離れていきました」

 

浮気騒動の際は、精神的に限界がきて、実母にも相談したという千里さん。ご両親は東京とはいえ23区外に住んでいることもあり、頻繁には行き来できないので、これまで夫に対する違和感は話していませんでした。

顛末を聞いた母親は、しばらく考えたあと、こう言ったそうです。

「どうしても我慢できなくなったらば、子どもを連れてうちに帰っておいで。でも、もう少しだけ頑張ってみたら。子どもたちを愛して味方になってくれるひとは、この世に1人でも多い方がいいよ。お義母さんだって、千里のことはともかく、孫は可愛いはず。きっとこの先困ったときに、子どもたちを助けてくれるよ。もちろん卓也さんだって、子どもの前で及第点ならば、いたほうがいいと思うよ」

 

その言葉を聞いて、胸が痛くなったという千里さん。息子さんが6年生になり、中学受験勉強が本格化するタイミングでもありました。経済的にも、夫の力は必要です。

しかし卓也さんは、受験勉強をする息子の横で、平気でヘッドホンもせずオンラインゲームをしていたそう。そのことについては諦めの境地だったと言います。一体どのような心持ちで対峙したのでしょうか?

「誰にも言っていませんが……夫のことは、『お金を持ってきてくれる、隣のおじさん』だと思うことにしました。つまり、家族としての心の交流はあまり期待しない。そうすると、ささいなこと……玄関に置いておいたゴミを外に運んでくれただけでも、『隣のおじさんなのに我が家のごみを!』みたいな感謝が湧いてきます。お金も運んできてくれて、そこはやっぱり感謝していますし。

中学受験に関しては、夫は自分が経験者にも関わらず、一切興味なし。私はわからないことだらけなので、もっと勉強を見てほしいなという気持ちが出そうになりましたが、年間200万円近くになる中学受験費用を出してくれるだけでいいんだと割り切りました。

でも、想定外だったのは義母。お金は全然出さないのですが、偏差値表にマーカーをつけて持ってくるんです。『このラインより下の学校は、恥ずかしいから受けちゃだめよ!』って……。こちらも、もはや近所の見栄っ張りなおせっかいおばあちゃんだと思うことで乗り切りました」

家族の在り方、夫婦の関係性は多様化し、正解のない時代。

家庭という「チーム」を存続させると決めたならば、そのための手段もひとそれぞれ、正解はないのかもしれません。千里さんが発想を変えて、結果的に小さなことでも感謝するようになり、卓也さんも多少は変化したそう。運ぶように頼んだゴミに加えて、横に置いてあったビンもついでに持っていってくれる、という程度ですが。

それでも、チームを維持すると決めた千里さんにとっては、前向きになれる材料だといいます。期待値を下げ、感謝を口にする。内心では、距離をとっているとしても。

「過去と他人は変えられないけれど、自分と未来は変えられる」。

千里さんが心の中で唱えている「夫婦関係を維持する秘訣」は、行き詰ったときにヒントをくれるかもしれません。

取材・文/佐野倫子
構成/山本理沙

 

 

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