結婚というフレームにこだわらない家族の形


大草 実は、去年くらいからオープンマリッジ(事実婚)にしたいと思っていて。というのも、結婚という枠にはめられると、どんなに努力を重ねても男と女ではなくなってしまう気がするんですよね。夫は、いまだに「高校生のような気持ちで君が好き」と言ってくれるくらい愛情表現が豊かですし、私も彼のことをちゃんと男性として意識していますけど、どうしたって肩書や役割が関係性に侵食してきてしまう。だとしたら、お互いにいつ誰と出会って恋に落ちるかわからない緊張感みたいなものがあるほうが、関係性に色気が出るんじゃないかと思ったんです。ただ、夫は外国の人なのであんまり結婚というフレームにこだわらないんじゃないかと思って提案したのに、拒否されているところです(笑)。

 お二人でうつっている写真を拝見しましたが、今でも十分、関係性に色気があると思いますけどねえ。

大草 そうでしょうか(笑)。もちろん子供の籍はどうするのかとか、いろいろ面倒なこともあるんですけど、家族というのは労わりあわねばならないもの、みたいな感覚もふくめて、窮屈に感じるようになってしまったんですよね。もちろんそれは、夫や子供たちを労わりたくない、ということでは決してないんですけれど。

 いいんじゃないでしょうか。大草さんが家族や夫婦の新しいかたちをどんなふうに切り開いていくのか、私はとても興味があります。あと、今のお話を聞いて、大草さんが『奇跡』に感銘を受けてくださった理由がわかった気がします。桂一さんもフランス仕込みのロマンティックなアプローチをされる方じゃないですか。日本人の我々にとって見たらそれだけでちょっと別世界の話のような気がして、憧れてしまう。でも大草さんにとってはわりと当たり前のことだからこそ、恋愛の描写以上に、博子さんの生きざまに惹かれるものがあったんですね。

大草 桂一さんほど素敵な方は、当たり前には存在しませんけどね。そんな彼女の生きざまを、大好きな林さんの文章で読むことができて、本当にうれしかったです。今後も林さんがどのような扉を開いていくのか、一読者としてとても楽しみにしています。

 ありがとうございます。ただまあ、できれば寂聴先生のように最後までパワフルに生き抜きたいですけど、世の中そう甘くないですからね。「林真理子もあんなに元気だったのにすっかり弱っちゃったらしいよ」、なんて将来は言われることも覚悟しております。でもだからこそ……博子さんのお父さんがおっしゃったように、人生ははかないからこそ、臆することなく自分が楽しいと思える、納得できる道を歩み続けていきたいですね。

 
 

林 真理子
1954年山梨県生まれ。日本大学芸術学部卒。’82年エッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』が大ベストセラーに。’86年「最終便に間に合えば/京都まで」で第94回直木賞を受賞。’95年『白蓮れんれん』で第8回柴田錬三郎賞、’98年『みんなの秘密』で第32回吉川英治文学賞、2013年『アスクレピオスの愛人』で第20回島清恋愛文学賞、’20年第68回菊池寛賞を受賞。‘18年には紫綬褒章を受章した。小説のみならず、「週刊文春」や「an・an」の長期連載エッセイでも変わらぬ人気を誇っている。

 

大草直子
1972年生まれ 東京都出身。大学卒業後、現・ハースト婦人画報社へ入社。雑誌の編集に携わった後、独立しファッション誌、新聞、カタログを中心にスタイリングをこなすかたわら、イベント出演や執筆業にも精力的に取り組む。WEBメディア「AMARC」を主宰。AMARC magazineの編集長兼発行人。インスタグラム@naokookusaも人気。

『奇跡』
林真理子(講談社)¥1780

男は世界的な写真家、女は梨園の妻ーー
「真実を語ることは、これまでずっと封印してきました」

生前、桂一は博子に何度も言ったという。
「僕たちは出会ってしまったんだ」
出会ってしまったが、博子は梨園の妻で、母親だった。
「不倫」という言葉を寄せつけないほど正しく高潔な二人ーー。
これはまさしく「奇跡」なのである。
私は、博子から託された”奇跡の物語”をこれから綴っていこうと思う。

数々の恋愛小説を手掛けた林真理子が、一生に一度、描かずにはいられなかった特別な愛の物語。

38年ぶりの書き下ろし!


撮影/目黒智子
ヘア&メイク/赤松絵利(林さん)、KIKKU(大草さん)
取材・文/立花もも
構成/川端里恵

前編「林真理子×大草直子「自分が納得して選んだら、誰になんと言われたって、存分に楽しんで」」>>