「子どもは堕ろせ。産むなら二度と連絡するな」


「妊娠については私も本当に想定外だったのですが、彼に伝えると、開口一番に『本当に堕ろして』と言われました。当時ピルを飲んでいたはずなのに、薬の副作用の関係で種類を変えたタイミングで、たまたま日数がズレて妊娠したみたいなんです。でも彼からしたら、確信犯としか思えなかったようで」

美香さんは変わらず穏やかな口調で続けます。

「この関係で、どうしてそんなことをしたんだと本気で責められました。もしかしたら、離婚調停中というのは嘘だったのかもしれませんね。彼はすごく焦って怒っていました。でも私は、実はこのときも彼に結婚を迫ろうとか思ってたわけじゃありません。もし認知してくれたらラッキーだけど、認知されなかったとしても、養育費を出してもらって今の関係を続けられたらいいんじゃないかと、ずいぶん気楽に考えていたんですよね」

しかしながら彼の方はそんな気はなく、想定外の展開に逆上するばかり。そしてとうとう、信じられない言葉を口にします。

「すぐに堕ろせ。堕ろさないなら、二度と会わない。連絡もするな。そう言われました。ああ、やばい人の子どもを妊娠しちゃった、とは思いましたが、でも、お腹の中の命を殺す選択肢は私にはありませんでした。それから、実際に今日まで彼とは会っていないし連絡もとっていません」

産むことを選択した美香さんは、彼に言われた通り、その後本当に一度も彼に連絡をすることはなく、また手切金のようなものも一切もらわなかったそうです。彼が今どこで何をしているかも、全く知らないと言います。

並々ならない決意と思いますが、不安などは感じなかったのでしょうか。

「もちろん落ち込みましたし、不安がないとは言えませんが、でもこのときは仕事も安定していたので経済的には1人でも育てられる状況でした。悲惨な状態に聞こえるかもしれませんが、妊娠自体は嬉しかったし、もともといつか絶対に子どもは欲しいと思ってたんです。だから堕ろす気はなかったし、『堕ろせ』と怒る彼にそれ以上関わる気もありませんでした。妊娠したのは私だし。それに、いつも感じていた寂しさが妊娠をきっかけに少しずつ薄れた気もするんです」

 

「あと、私は昔から、人生でたびたび起きる“大きな流れ”には逆らわないようにしてるんです。グラビアがうまくいったことも、結婚してすぐに離婚したことも、妊娠したことも、娘の父親に激昂されたこともすべて大きな流れ。なのでこの時も、下手に逆わずに流されてみようと思いました」

 

波乱万丈の人生を送りながらも、常に一定した心持ちを崩さないように見える美香さん。

普通なら心折れるような状況でも、物事を悲観せずに淡々と前へ進む強い女性という印象がありました。また表面的には男性に頼っていると言いながらも、着実にご自身の経済力をつけるという堅実さも持ち合わせているようです。

美香さんの話を聞いていると、女性が自由な選択をするにはやはり経済力が重要なのだ思わずにはいられません。
 

7月14日更新予定の後半記事では、「過去で一番孤独だった」という美香さんの妊婦期間の心境、そして出産後の生活の変化を教えていただきます。
 


取材・文・構成/山本理沙
 

 

 

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