ある日突然BTS(防弾少年団)に“沼落ち”したという小島慶子さん。

今やK-POPアイドルの枠を超え、全世界を席巻するBTS。なぜ彼らはここまで爆発的な人気を得たのでしょうか。BTSがどんなメッセージを発し、世界中の人々の価値観にどのような影響を与えてきたのか……。本連載では小島さんが、様々な立場の“BTSに精通する人々”との対話を通して、『BTS現象』を紐解きます。

写真:AFP/アフロ
既にご存知の通り、BTSは6月14日に公式YouTubeチャンネル「BANGTAN TV」で、今後しばらくはそれぞれにソロ活動に力を入れていくと発表しました。グループとして成熟した第2章を迎えるための決断とのこと。詳しくは動画を見てメンバーの言葉を直接聞くのが一番だと思うのでここでは割愛しますが、私は率直に、そうだよなあ、と思いました。デビュー前から10年以上も一緒に走ってきて、十分大人になり、大きな成果を上げ、資産も形成し、実力もつき、あとは一人の時間と、誰かの期待ではなく、自分の気持ちに耳を傾ける余裕だけが足りないという状況で、他に答えはなかったのだろうと思います。聡明で誠実な決断を心から応援したいです。今後の彼らの活躍を見るのが楽しみです。
ふと思い出したのは、かつて仕事でご一緒した、ある日本のアイドルグループのことです。3世代にもわたるファンの笑顔で溢れるスタジアムのステージを駆け回る自分と同世代の彼らを見て、こんなにも多くの人々の笑顔に応え続けるのは大変なことだと思いました。数十万人のファンの幸福請負人として、いっときも止まるわけにはいかないその責任の重圧は、とてつもないだろうと。作家の朝井リョウさんは「電気水道ガスSMAP」とおっしゃいましたが、本当にもはや社会のインフラとして不可欠な存在となっていたのです。解散の時には大きなニュースになりましたよね。あの時も40代の大人がキャリアについて悩み、変化を決断するのはむしろ自然なことだと思いました。どんなに有名な人でも、その人自身の人生を何よりも大切にしてほしいと心から思います。
 アイドルはその名の通り、人々の幻想を体現する偶像として振る舞わねばならない宿命にあります。でも、彼らも私たちと同じように、一つきりの体と、限られた時間しか与えられていません。誰かを愛し応援することは、その人の命を祝福すること。ありのままの存在を歓迎すること。愛とは所有と支配ではなく、尊敬と受容なのですよね。
しばらくはソロ活動に注力すると、涙ながらに語ったBTSメンバー7人の姿は、そのことを改めて思い出させてくれました。

今回と次回は『BTSとARMY 私たちは連帯する』の著者である韓国の社会学者、イ・ジヘンさんとの対談です。対談が行われたのはBTSのソロ活動注力宣言の前の、今年5月。他に類を見ないARMYというファンダムについて掘り下げます。ARMYもまた、BTSのメンバーそれぞれの一人旅と共に成熟し、次なるステージへとさらに進化するのでしょう。
 


さまざまな人種、年齢、性別の人々が、BTSが好きということだけを拠りどころにして連帯でき、社会に働きかけようとするのはなぜなのか? ARMYという存在を社会学的な見地から掘り下げるべく、2回にわたって対談をお届けします。

※対談は2022年5月末に行われました