「夫をいかに怒らせない環境を作るか」に腐心する日々


しかし根底には、「結婚は我慢が当たり前」という価値観があり、そこから逃げようとか、つらいという気持ちはありませんでした。それよりも、「わたしのように我慢している人はたくさんいる、うまく立ち回ればなんとかなる。自分なんて実家も近いし、友達もいるし、まだまだましな方だわ」と言い聞かせていました。

もちろん、耐えることばかりではありませんでした。かわいい娘と息子に恵まれ、とても幸せで満たされた時間を味わいました。彼らの存在が自分を強くしてくれたといっても過言でありません。だからこそ、夫の機嫌を損ねないように、お酒を飲んで暴れないように、子どもたちに被害が出ないようにと気を配りました。

 

自分が我慢することで丸く収まるのならば、いくらでも我慢できると思ったのです。気づけば、夫をいかに怒らせない環境を作るかということがわたしに課せられた任務となりました。とにかく一日を平穏無事に過ごすことが目標。いつの間にか食卓には、夫の好きなものだけが並ぶようになり、自分は食事をしていないことすら気づかない状態になっていきました。

 

結婚9年目、夫から向けられた刃


「今の自分は本当の自分ではない。いつか本当の自分になれる。それまでは、この仮の自分のままでじっとしていよう」と心の中で言い聞かせていました。

何をしても味気なく、淡々と過ぎていく日々。「自分がどうありたいか」という自分軸の考え方でなく、「まわりからどう思われるか」という相手軸の考え方をしていたので、本来の自分がいることさえも忘れていきました。

そんな結婚生活を9年近く続けていたころ、人生2度目の転機が訪れます。37歳の時でした。お酒を飲み、些細なことでモラハラスイッチの入った夫が、今までにないほど大暴れをしたのです。物を投げられ、子どもの玩具が散乱し、家の中がぐちゃぐちゃになりました。

そして、怯える子どもたちのそばにいるわたしに「一緒に死のう」と包丁を向けてきたのです。一度は好きになって結婚しようと思った相手から、本物の刃をむけられてしまったのです。