「いい加減に目を覚ましなさい」


信じがたいかもしれませんが、その時のわたしは、子どもたちを守るのが最優先と考え、とても冷静でした。
「これは、人に向けるものではなく、食べ物を切るものだからしまおう」
と夫を諭し、夫の手元にある包丁を台所にしまうことができたのです。そして、夫に寝室に行くように促し、気配を察して泣きわめく子どもたちを寝かしつけました。

正直、あの場には感情はありませんでした。ここで動揺してしまったら、相手が逆上してしまうかもしれないと、無意識に防衛反応が働いたのかもしれません。

自分でも驚くほど冷めて落ち着いた行動がとれたおかげで、事なきを得ることができたのです。もし、あの時動揺していたら、別の未来だったかもしれません。人は極限状態の時は、瞬時に自分にとっての最善策を考え、想像を超える行動を取ることができるのだと感じた瞬間でした。

 

しかし、皆が寝静まったあと、「わたしは今まで何をして生きてきたのだろうか」という気持ちが湧き上がってきました。まるで、天から「いい加減に目を覚ましなさい」と言われ、自分の身体に稲妻が走り心が揺さぶられるような感情でした。

 

そして、このままの状態でいることはよくない、子どもたちにとってもよい影響はひとつもないと気づいたのです。これからは自分の足で歩かなきゃいけない、子どもたちを守るのはわたししかいないと思ったのでした。

今まで目を背けていたものを直視しなければならない――。生まれてからずっと相手を優先して、自分の意見を言わなかったわたしが自ら、「この人と離婚しよう」と決めました。人生で初めて、自分の意志で大きな決断をした時でした。