歌舞伎の若女形(わかおんながた)として大活躍の尾上右近さん。本興行のほかにもさまざまな舞台を精力的にこなし、自主公演「研の會」は第6回を数えます。今回は、これまで演じてこなかった壮年の武士の役、そして、カップルの男女を役替わりでしかも人形を相手に演じるという、実験的な上演に挑みます。

見た人に強い印象を残す個性的な美しさのマスクで、バラエティ番組ではマシンガントークを繰り出す右近さん。歌舞伎に詳しくなくてもそちらは見たことがある、という人も多いでしょう。そのウィットはそのままに、歌舞伎や自身のルーツへの深い思いを、圧倒的な情熱で語ってくれました。歌舞伎俳優との「二刀流」で続ける、右近さんのもう一つの顔にも迫ります。 

 


やりたいと思い続けていると、パズルのピースがぱちんとはまる瞬間が来る


右近さんが6回目の自主公演に選んだ演目は二つ。一つは舞踊劇の『色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ) かさね』。『かさね』の音楽は清元(きよもと。三味線音楽のジャンルの一つ)といい、美しく官能的な曲として知られています。
もう一つは義太夫歌舞伎の『源平布引滝(げんぺいぬのびきのたき) 実盛物語(さねもりものがたり)』。どちらもそのジャンルを代表するような重要な演目です。

 


ーー『かさね』は今回、文楽人形との共演で上演されるとか。歌舞伎俳優と文楽人形の共演は、これまでごく実験的な試みがあっただけで、珍しいですよね? それに、文楽といえば、人形のお芝居と義太夫(ぎだゆう)の演奏からなるもので、文楽人形がほかの音曲でお芝居や踊りをするということは、普通はないのではありませんか?

尾上右近さん(以下、右近) いつか『かさね』をやらせていただきたいなという思いは以前からありました。それも、女形のかさねだけでなく、立役の与右衛門もやってみたい。自主公演でできたらと。そんな時、文楽人形遣いの吉田簔紫郎さんにお目にかかる機会があったんです。意気投合してお話しするうち、「そうだ! 『かさね』を文楽人形とやってみては?」とひらめいた。

清元の地(じ=踊りの音楽)で、文楽人形が所作(しょさ=舞踊のこと)をするって、画期的で面白いんじゃないかと。しかも、簑紫郎さんも立役と女形どちらも遣われるので、かさねと与右衛門を僕との役替わりでというお願いもできる。 
やりたいとずっと思っていると、必要なパズルのピースが、あるタイミングでバーッと揃ってぱちんとハマるという時が、不思議とくるんです。
 

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きりりとした和服姿がかっこいい!
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