「急いでるんだよ!」と言われたら、あえてゆっくりと


「急いてはことを仕損じる」ということわざがあるように、焦っているときは何かとミスをしがちですよね。ちなみに、駅員時代の綿貫さんは「急いでると言われたときは逆にゆっくり対応しろよ!」と先輩に助言されたそうですが、最初はその意味が分からなかったと言います。

「急いでる人にゆっくり対応するなんて、それは嫌がらせをしているのと同じなのではないか? そんなことをしていたら『モタモタするな』と苦情を言われるのではないか?」

おそらく多くの人が同じ考えになるのではないでしょうか。しかしある日、綿貫さんはそんなことを言っていられない事態に直面します。出札業務に就いていた綿貫さんは、「新大阪まで、3分後の電車に乗りたいから急いでくれ!」と注文してくる乗客に出くわしてしまいました。彼はその求めに応じて切符を急いで作りますが、先輩のアドバイスを痛感する状況に陥ってしまうのでした。

「機械から出てきた切符を見ると、新大阪までのつもりで作ったのに、京都までの切符になっている。操作ミスだ。様々な駅名がずらっと並んでいるので、押すボタンが少しずれてしまうと違う駅名を選んでしまう。そして最終確認画面も『自分が間違えるはずないだろう』とすっ飛ばしてしまった。ゆっくりと確実に対応していればこんなミスはしなかった」

 


安全は決められた手順を守ることによって維持されている


結局は乗車に間に合わせることができ、大きな苦情にならずに済んだそうですが、綿貫さんにとっては痛恨のミスであり、戒めを胸に刻むことになりました。

「急いでる客を相手にするときは、絶対にミスしてはいけないのでゆっくり慎重に操作するのが正解なのだ」

もし自分が乗車を急いでいたら、ゆっくり丁寧に切符を作っている駅員を見てイラつかずにいられるでしょうか? そんなときは、綿貫さんが本書でつづった心情を思い出せば平常心でいられるかもしれません。

 

「何事においても、効率よく、スピード感をもって作業することは大事なことだろう。しかし過度にスピードを求めて普段の流れを崩してしまうと、より大きなミスに発展する確率が上がる。鉄道は安全に運行することが第一。日々の安全は、決められた手順を守ることによって維持されている」