養育費一括、ただし割引!


「その頃、たくさんのホテルや民泊が格安のワーケーションプランを発売していました。子ども二人を連れて、保育園に通える範囲のキッチン付きの部屋を探して、ここで数カ月別居したいと伝えたんです。月に8万円ほどかかりましたが、もし離婚をするならば実際にそのくらいの住居費はかかるはず。数カ月ほどでもシミュレーションして、厳しさを体感するためにも必要だと考えました」

すると良平さんは、そんなことのために8万円も払うならば、自分が出て行くと言ったそう。ただし、狭い単身用の部屋代5万円は、お前が払ってくれという主張でした。どこまでも……と内心思いつつ、子どもたちへの影響は最小限がいいと考えた真弓さんは、その条件で別居をスタートしました。

「別居してしばらくは、子どもたちも『パパはどこに行ったの?』と不思議そうでした。しかし、普段から寝室にしかいないのが幸いして(笑)、驚くほどはやく、3人の生活はより快適な雰囲気に落ち着いたんです。ずっと治らなかった蕁麻疹も消えて、偏頭痛も良くなって」

 

「ずうっと、大したことじゃない、夫婦なんてみんなこのくらい我慢しているんだ、と言い聞かせてきました。でも、結婚してから私、ほとんど笑顔がなかったなって思い当って。いつもいつも、何かをごまかしてきました。でも、それは人生がもったいないなと思えたんです」

そこから真弓さんは、区役所に行ってシングルマザーとしてやっていくための制度を調べたり、一般的な離婚の条件について相談したり、一つずつ準備を重ねました。子どもを抱えて本当に生計が成り立つのか慎重にシミュレーションをします。慰謝料はなしと考え、養育費は政府が出している統計から収入に対して平均的な額を算出、そこから割り引いて、そのかわり一括で貰う交渉をすることにしました。

 

「あのくらいお金に執着していたら、養育費を毎月払うと約束しても、払ってくれなくなるかもしれない。そのリスクを考えると、多少減ってしまっても一括でもらっておきたかったんです」

そこまで準備をして、別居してから3カ月後、改めて離婚したいと告げた真弓さん。今度はその本気を悟っていたのか、良平さんも諦めた雰囲気だったと言います。

「お前が改心するならばやり直そう、と言われましたが、改心するのはあなたよ、と内心思っていましたから、離婚して正解だったと思います。養育費も、割引につられて(笑)意外なほどすんなりと一括で払ってくれました。まあ、同じ会社なので、あまり泥沼になるとまずいと思ったんだと思います」

現在は、職場からそう遠くないところに部屋を借りて、親子3人で暮らしている真弓さん。なんと同じマンションの部屋が売りに出し、そこを購入したそうです。新卒から勤めていたので、与信もあり、ローンを組むこともできました。

「若い時、しかも1年くらいの交際期間で、相手の価値観を全て理解するのは難しいですよね。どうしてもすり合わせることができない場合は、離婚という選択肢もあっていいと私は思います。もちろんそうならないのが一番ですが、長い間離婚なんてあり得ない、と謎の思い込みに縛られて苦しんだからこそ、そのことは伝えたいですね」

優しい目で微笑む真弓さんは、苦労したぶん、確実に強くなっていらっしゃるように感じました。

夫婦の形が多様化した今、時には家庭内でのひずみがあらわになることもあるでしょう。しかし、辛いとき、「ただ耐える」以外の方法を模索できる時代が少しずつやって来たようです。


取材・文/佐野倫子
構成/山本理沙

 

 

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