「この子が息子の彼女!?」専業主婦母の困惑


――よ、よろしくでーす!? 

早穂子はあまりの衝撃に、言葉も出ない。わざわざ目黒駅まで行って新調してきたピンク色のモロッコスリッパを並べる暇もなく、桃田真凛は家に上がってきた。くりくりした垂れ目が印象的で、それはいいのだが、ゆるっとしたシルエットのレモンイエローのワンピースは夏休みの学生のよう。髪の毛も少々明るすぎるブラウンで無造作なアップスタイルにしているが、彼氏の家に挨拶に来るにしてはどうにもルーズなシルエット。

しかし早穂子はどうにか笑顔を保ちながら「どうぞ、洗面所はこちらよ」と促した。

だいたい約束の時間より1時間も早く来るとはどういうことなのか。早穂子は玄関でモタモタしている息子の光輝を睨む。

「光輝、早く来るなら連絡くれないと。お母さんまだ準備中だったのよ」

真凛が洗面所に入ったときに、早穂子は光輝に小声で抗議した。

「ああ、ごめんごめん、前の予定が早く終わっちゃって、外は暑いし、真凛の体調が心配だったからさ」

そう言われては仕方ない。早穂子はそれ以上咎めるのは諦めて、とにかく急いでコーヒーを淹れる準備のためダイニングキッチンに入る。夫の陽一は、二人の到着予定だった18時に会社から帰ってくるはず。夕飯までのつなぎとして、コーヒーと冷たい水菓子でも出そうか……。

早穂子が思案していると、光輝と真凛が手をつないでリビングに入ってきた。なんというか、全てが衝撃である。早穂子が初めて陽一の実家に行ったときは緊張して右手と右足が一緒に出るんじゃないかと思ったものだ。

それに比べて真凛は……随分と平然としているように見える。

「おかーさん、こんにちは。これ、めっちゃ美味しいので食べてみてください!」

「ま、まあ、ありがとう、何かしら? 楽しみだわ、あとで皆でいただきましょうね」

早穂子は真凛がとりあえずセオリー通り手土産を持ってきてくれたことにホッとしながら紙袋を受け取った。何せこちらはお土産の菓子折りも用意しているのだ。

「さあ、真凛さん、こっちにお座りになって。主人が帰ってくるまでもう少し時間があるのよ、よかったらコーヒーでも飲んでゆっくりしていて頂戴ね」

 

ソファに促すと、真凛は「あー」とほっぺたをぽりぽりと掻いて、光輝を見た。目配せをしている。

「あ、お母さん、真凛はコーヒーはちょっと。ていうかカフェインがね。麦茶かなんかあるでしょ? あと、夕飯なんだけど……今彼女、ちょっとゴハン食べられなくて。日によって結構波があるからイケるかなと思ったんだけど、今日はダメみたい」

「麦茶? もちろんいいけれど……でもお夕飯は、ぜひ召し上がってほしいわ、お母さん張り切ってローストビーフも焼いたのよ。ほら、ちょうど焼けてきた、いい匂いでしょう?」

「うう……おかーさんすみません、トイレ借ります!」

真凛は口元を抑えると、突如としてリビングを出て行く。「真凛、トイレは突き当りのドアだよ!」と光輝が叫ぶのを、早穂子は呆然と見ていた。

 

まさか。

「……光輝」

恐る恐る光輝を見ると、手塩にかけた1人息子は、バツが悪そうな表情で頭を掻いた。

「うん、さすがお母さんにはすぐバレちゃうな。そうなんだ、真凛、おめでたなんだよ。僕たち、すぐに結婚するつもり」

次週予告/
まさかの急展開に、早穂子はうっかり失言を……?
構成/山本理沙
 

 

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