「自分を、不幸だと思うのはやめる」


現在、夏美さんは結婚していた当時から少しずつ続けていた服飾デザイナーとして本格的に活動中。新たなブランド立ち上げにも関わっており、忙しい日々を送っています。

「もともと若い頃から洋服が大好きで、趣味でデザインをしてみたり、知人のブランドとコラボしたりすることがあったんです。その延長や周囲の支えで今は仕事ができているので感謝しています」

お話を聞く限りでは、かなり辛い経験をされている夏美さん。けれど少なくとも、今の彼女から悲壮感や苦労をしている様子はなく、むしろ充実した日々を送っているような印象があります。

この一連の経験を、どのように乗り越えたのでしょうか?

「もちろん、傷ついたり絶望したりすることは何度もありました。でも、ある時から考え方を変えたんです。

離婚後、仕事の繁忙期と受験で多忙だったとき、子どもたちが急に体調を崩して誰にも頼れず、結婚していた頃にお世話になっていた家政婦さんに連絡して子どもたちの面倒を見てもらったことがありました。急な連絡にも関わらず駆けつけてくれて本当に助かったのですが......」

彼女は、夏美さんが仕事から戻り支払おうとしたシッター料を頑なに受け取らなかったと言うのです。

「離婚後に財産を奪われた私の状況も知っているから、気を遣ったのでしょう。彼女は、赤ちゃんの頃から知っている息子たちに会えて嬉しいし、これは仕事じゃないからお金はいらないと言うんです。ちなみに彼女はフィリピン人の女性で、私と同じく子どもが2人おり、日本で働いたお金で子どもたちを日本に呼び寄せて生活している立派な方です。

彼女はそのとき、『夏美さん、お金は大切です。私に払うなら、将来の子どもたちのためにそのお金はとっておいて下さい』と言ってくれたんです......」

......これまで冷静だった夏美さんの言葉が詰まり、目から涙が溢れます。

「彼女はもちろん、決して日本で裕福な暮らしをしているわけではありません。でもいつも明るくハッピーで、他人にも親切にできる人。このとき、私はもう、自分の苦労や不幸に目を向けるのはやめようと強く思いました。多少お金が減っても、日本という平和な国に生まれて、子どもたちと安全に生きている私は恵まれています。

自分を不幸な人間だと思い込んでしまうと、その分、行動や選択肢の幅が狭まって不自由になる。人にとっての1番の不幸は、自分で自由を制限してしまうことだと気づいたんです」

 

人は窮地に立ったときに本質を発揮すると聞きますが、1人でお子さん2人を抱えたこの状況で、こんな風に気持ちを切り替えられる夏美さんは本当に芯の強い女性だと感じます。

「とはいえ、たまに子どもたちの寝顔を見ていると、この選択が正解だったのか分からなくなることもあります。私が我慢さえできれば、この子たちはもっと良い環境で育てられたのかもしれないと後悔したり、忙しさにかまけて家事も料理も適当になって罪悪感に苛まれたり......。

 

自立って、本当に難しいし大変です。正直なところ、いつも不安と隣り合わせだし、常に緊張感があります。誰か守ってくれる人がいるなら頼りたいですよ(笑)」

夏美さんは、気持ちが沈んだときには『ハリー・ポッター』の著者であるJK .ローリングのハーバード大学卒業公演のスピーチを何度も繰り返し見ているそう。同じくシングルマザーで人生に行き詰まっていた彼女の言葉は深く心に響くと言います。

「でも、お金のことも元夫に頼り続けるより、自分が経済的に自立したほうがずっと安心です。そして私は、わざわざ海を渡らなくても、今いる日本で自由に働いて成果を出せる可能性があります。

だから......この環境に感謝して、ただ突き進むしかないと思っています」

何が起こるか分からない人生。その節々においての選択で何より重要なのは、その選択を正解にしようとする強い覚悟なのだと感じました。

夏美さんは常に息子さんたちを気遣い心配している様子でしたが、彼女のような母親の元にいるなら、きっとそれ以上の幸せはないと思います。

今後のご活躍を、心より応援しています。


取材・文・構成/山本理沙

 

 

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