モチベーションを支えるのは、『自分はやり続ける』という強い意志

 

今井さんも音楽という、後世へ残っていくものに日々向き合っています。今井さんのしなやかで包容力のある歌声に癒やされた人は、特に先の見えなかったコロナ禍において、多かったのではないでしょうか。とはいえ、今井さんにとってもコロナ禍は、非常に苦しい時期だったそうです。

 

「ミュージシャンに関して言うと、日本でもコンサートはなかなかできなくなっていたと思いますが、スタジオワークの人はけっこう忙しくしていました。でも、イギリスはスタジオも全部閉まってしまったので、本当に何もできなくなってしまったんです。

私はたまたまラッキーなことに、東京と大阪で、2020年11月に4公演、翌年にも4公演のライブができましたが、それ以外はずっとロンドンの自宅に引きこもっていました。日本に滞在中も、万が一のことがあってはいけないので母にも会わず、外出もほとんどしませんでした。この2年間、日本での8本のライブ以外はずーっと電源を切られている感じだったんです。この先、自分だけでなく、夫や同業者、多くの人が集まる場所で働く人たちがどうなるのだろうか、世界はどうなるのか……と考えると、どんどん陰にこもってしまって……。

今年に入ってからは、ようやく客数を100%に戻してライブができるようになりましたが、この2年間で立ち止まらなければいけなかった人たちが一気にコロナ禍前に戻ろうとするから、今度はやれる場所がなくて、思い通りにいかないわけです。そんな状況でモチベーションを保ち続けていくのは難しい。でも『自分はやり続ける』と、とにかく強い意志を持ち続けるしかない。それは、紅花の文化を守り続けた人たちも同じじゃないでしょうか」

一人の人間として、アーティストとして、社会と生活に真摯に向き合っているからこその葛藤や惑いを、率直に話してくれました。

「正直、これから先の自分がどうなるのかはわかりません。でもそれはネガティブな意味ではなくて、新しい世の中でどう生きていくか、という意味で。日本も戦後だったりいろんなタイミングで、新しい時代に何度も変化を繰り返してきました。私たちの世代ではリーマンショックがありましたが、若かったこともあり勢いのまま走り続けることができたんですよね。この年齢になると、もう一度仕切り直すのはなかなか容易なことではないと思いますが、世界中の人たちが長い歴史の中でいろんな転機を乗り越えてきたように、私たちもまた新しい扉を開ける転機に立っているということ。社会の努力と同じように、自分も努力していくしかないと思っています」

 


生きていくということは、変化していくということ


30年前に参加した『おもひでぽろぽろ』に導かれるかのように、『紅花の守人』に参加した今井さん。モデル、女優、歌手、そして妻、母として、この30年間はどんな旅だったのでしょうか。

 

「まだ旅の途中ですし、旅はずっと続きます。私はたまたま、住まいをイギリスに移したので、すごく大きな路線変更をした旅に見えるかもしれませんが、例えば生まれ育った場所で生き続けている人も、みなさん一人ひとりが自分だけの旅を続けていると思います。生きていくということは、変化していくということ。自分だけでなく、相手や周り、社会も変化していくわけですから、大げさに言うと、毎日が新しい旅なんです。

若い頃は、初めて行く場所でも、瞬発力だけ駆け抜けることができたけれど、そういう時期ってそんなに長くないんですよね。自分の精神的・肉体的な変化や、環境の変化もあって、頑張らないと走れなくなる。そこからは、若い頃に蓄えた感性や経験、喜び、悲しみ……はできればいらないので(笑)、反省や学習したことをどう生かしていくか。瞬発力だけで走れなくなってからの方が、よっぽど長い旅ですから。

ふと家族に目を向けると、蕾だった子どもが花開き、自分一人で生きる力を備えているんです。自分との年齢差は変わらないけれど、関係性が明らかに変わっていっているんですよね。感覚で言うと、船の上で、空の様子を見ながら大海原を航海するのと似ているんじゃないかな。今も毎日ドキドキしています」