「お前なんか仕事ができるはずがない」という呪い


亜弥さんは現在、実家がある札幌で3人のお子さんと暮らしています。なんとマンションを購入し、子どもたちを養いつつ、塾や習い事にも通わせているとのこと。甲斐性のあるお母さんで素晴らしいですね、とお伝えすると、「いえ、結婚するまでは契約社員でしたし、その後は12年ほど専業主婦。キャリアという単語とは無縁です。育児中、元夫から『お前なんか仕事ができるはずない』と言われ続けて、そうなんだなと思い込んでいたくらい」というのです。

このように、仕事を通じた社会とのつながりが、結婚や育児で中断したとき、一番近くにいる人の影響を強く受け過ぎてしまうことも。とくに亜弥さんは、親御さんも遠方にお住まいで手を借りることもできず、子どもが小さい頃は自分のキャリアや趣味について考えたり行動を起こす余裕はありませんでした。

「『俺の時間は俺の時間。家事とか育児は俺ありきで考えないで』という謎理論で、彼は家でもゲームをしていることが多かった。これは、がみがみ言っても効果がないと感じて、同世代のお父さんはもう少し協力的であることを肌で感じてもらう作戦に出ました」

元来、明るくて前向きな亜弥さん。夫の言葉で自分は仕事に向かないのかなと悩んでいたものの、とにかく今は家事育児を、力を合わせて乗り切ろうと考えました。 

 

「保育園の仲間たちと、家族ぐるみでBBQに行くなど、他の家の子育ての様子を見て変わってくれないかなって期待しました。でも仲良くなるのは私ばかりで、彼は他所は他所、という姿勢。

 

子どもは2人の時はなんとかなったんですが、3人目を妊娠して、妊婦健診に行くのも一苦労に。夫は全く子どもを見てくれず、車もないので、自転車の前後に乗せて病院に行っていましたが、臨月が近づくとそうもいかず。困り果てていると、ママ友がうえの子たちを預かってくれて、パパ友が車で病院に送ってくれたことも。それを聞いても、へー良かったね、というだけ。自分が行くべきなのに他の人に迷惑をかけた、という発想がないんだと衝撃を受けました……」

ほとんどサポートはない中で、なんとか無事に出産した亜弥さん。「その時点で離婚はよぎりませんでしたか?」とつい尋ねてしまいました。しかし彼は会社員のため生活費が滞ることはなく、仕事には真面目に行っていたといいます。もともと温かい家庭を目指して子だくさんにした亜弥さんは、そう簡単に離婚はしないと決めていたそう。

しかし、そんな信念も揺らぐ、事件が起こります。健康診断で、亜弥さんに悪性の腫瘍が見つかり、手術することになってしまったのです。