日本は「女体傷つけ放題」な価値観


これまでの性的スキャンダル報道と違って、こと今回の報道で細かく描写されていたのは、避妊や中絶に関するものでした。坂本選手はコンドームをつけることを拒否したり、中出しを求めたり、不安になるとアフターピルを飲むよう強要したり。挙句の果てに女性が妊娠したら「おろすなら早いほうがいい」のひと言。この、相手女性の体を傷つけることを「へ」とも思っていない一連の思考が詳しく報道されたことが、今回の性的スキャンダル報道の“新しさ”だった、と言ってもいいかもしれません。

写真/Shutterstock

折しも今、アメリカは中絶の権利を巡って揺れに揺れている最中。これは、アメリカの連邦最高裁判所が「妊娠6週以降の中絶は原則禁止」という判断を下したことにあるのですが、これに怒ったのが多くのアメリカ女性たち。「私の体のことは私が決める!」と中絶の権利を唱え、連日デモを開催。今年11月におこなわれる中間選挙、いや、2年後の大統領選挙の行方すら左右しそうな勢いで、日本でもこのニュースは多く報道されました。

写真/Shutterstock

それゆえ日本女性にも、この「私の体のことは私が決める」という考え方は無意識下に刷り込まれていったのかもしれません。少なくとも、この発想は日本女性には全くといっていいほどなかったところに、種だけは撒かれたはず。しかし種だけですから、芽も出ていないし、いわんや花をや、です。「アフターピル飲めとか簡単におろせとか、傷つくのは私の体よ!」なんて自覚は皆無という人もまだまだ少なくないでしょう。それでも、種はある。だからこそ今回の坂本選手の報道に対して、「何だろう、たしかに法は犯していないけど、たしかに二人の問題だけど……」と激しくモヤモヤを感じ、どうにもスルーできなかったのではないでしょうか……。

 

今回、多くのコメントを読んでいて興味深かったのは、先ほども挙げたように「子供に夢を売る仕事なのに」という声が多かったことです。これって一瞬、「ん? 問題の本質ってそこ?」と首をかしげてしまう主張でもあります。でもこういう主張になってしまうのはきっと、私たちがまだまだ撒かれた種を芽に成長させられていないから。自分たちのモヤモヤの正体を自覚化できていないゆえ、坂本選手、いや引いては日本社会の「女体なんて傷つけ放題」という感覚に対して、「子供に夢を売る仕事なのにこんなことしていいのか?」というよく分からない言葉で反撃したのだと思うのです。