落ち着けないのは、苦しい自分を救いたいから


子どもが落ち着けない理由について、本書の監修者でもある前川あさ美教授は「『今』の状況に苦痛を感じていて、変えたいだけかもしれません」と考察しています。

「私たちももちろん、『今』を生きています。ですが、たいてい、『これが終わったら、○○して……』とか、『期限が×月×日だから、それなら今はこれをやろう』などと、時間の流れを考慮しながら『今』を過ごしていることが多いはずです」

「ですが彼らは、この『見通しをつける力』が未熟なのです。この力が弱いと、『今』が苦痛であることに耐えられず、絶望的な気分になります。『がまんができない子』と言われますが、つらい『今』を変えたいだけ、つまり、苦しい自分を救いたいだけなのです」

 


筋力や身体感覚といったフィジカル面も無視できない


さらに前川教授は子どもが落ち着けないもうひとつの理由として、「筋力」にも注目しました。

「姿勢維持が苦手な理由のひとつに、体幹の弱さがあげられます。つまり、体の中心の筋力が弱いのです。だから、たとえば立っているとき、本人はがんばって『正しい姿勢』でいるつもりでも、実は猫背になっていたり、顎を突き出した姿勢で立っていたりします。座ったときも、上半身をまっすぐに安定させることができず、ぐにゃりと前倒しになる子がいます。それが『不真面目』『無気力』と、大人から誤解される原因になります」

 

発達障害というと精神面に目がいきがちですが、フィジカル面も大いに関係していたのですね。同じフィジカルの問題として、前川教授は「身体感覚」にも言及しています。

「体の感覚がユニークであることも、姿勢を維持できない原因になっています。自分の体の位置や向き、動きや力加減を感じる感覚のことを『固有感覚』、体の傾きや重力に対応して姿勢を維持し、バランスを保つ感覚のことを『前庭感覚』と呼んだりしますが、彼らはこうした感覚の発達や、他の感覚との統合が弱いようです。このため、自分の体がどんな状態にあるか、直感的にはわからないこともあります。だからたとえば、寝ているときに『自分がどちらを向いているか』『脚がどうなっているか』を知るために、わざわざ明かりをつけて、自分の目で見て確認しないとわからない、といった不便もあるようです」