——最初は「線は、僕を描く」の原作小説を読んでどんな魅力を感じましたか?

横浜流星さん(以下、横浜):いちばん印象的だったのは水墨画の巨匠である篠田湖山先生の言葉です。「自分の心の内側を見ろ」や「できるかできないかではなく、やるかやらないかだ」など、僕自身が感銘を受けた言葉がたくさんあって。水墨画の世界にどんどん引き込まれていく主人公の霜介に共感しながら読み進めたことを覚えています。

 

——役作りで約1年かけて水墨画の練習を重ねたそうですね。

横浜:もともと僕は絵が得意ではないので、自信がなかったし、プレッシャーを感じながら練習に挑んだんです。でも、水墨画を教えてくださった先生が、すごく楽しそうにお手本の線を描いてくれまして。僕に対しても「基本的に失敗はないから、自由に描いてください」と。上手く描かなければいけないという思考に縛られず、楽しむことが大切だと教えてくれました。それは芝居に似ている気がして、面白かったです。でも、すぐに楽しめたわけではないです。

 


——「基本的に失敗がない」ということは、裏返すと「明確な正解もない」ということですよね。自分なりに納得できる線が描けるようになるまで、どれくらい時間がかかりましたか?

横浜:最後まで悩みながら描いていました。水墨画ってその日の心情が線に出てしまうので、同じ題材を描き続けていても、毎回、仕上がりがまるで違うんです。線がブレブレで(笑)。ただ、もともと僕は空手をやっていて、自分と向き合って課題を見つけたり、黙々と技術を追求していったりすることが好きなんです。その点において水墨画は自分に向いている気もしました。霜介は初心者なので、僕も初めから上手い必要がなかったのが救いでしたね。

 

——ただでさえ線を描くことに慣れていないのに、今回は俳優として「霜介の線」を表現することが求められたと思います。精神的な役作りと技術的な役作りを融合させなければならないのは非常に難しかったのでは?

横浜:本当に、その通りです。練習に付き添っていただいた先生から、僕が描く線は真っすぐで力強いと言われていたんですよね。繊細な線を描く霜介とはかけ離れていたんです。横浜流星の線ではなく、霜介の線を描くために、意図的に細い線を描いてみたこともあるのですが、それも、なんか違うなと……。僕にとって非常に悩ましい問題で、心が折れかけたこともありました。

——その壁をどうやって乗り越えたのでしょうか?

横浜:とにかく日頃から水墨画に触れる時間を増やし、撮影現場で霜介として生きていれば、自ずと僕自身の線と霜介の線がリンクするような気がしていて。だから、あまり考えすぎないで、できることに集中しようと思っていました。