「こんな夫婦のもとに産まれてくる子はどうなる?」


「子どもは、結婚して1年半が経ってもできませんでした。痺れを切らした義母に、不妊治療の名医のところに否応なく送り込まれました。一通りの検査では異常が見られず、あえていえば夫の方に多少治療の余地がある、と。本格的な不妊治療をするならば一刻も早い方がいいと勧められました。

いよいよとなった時考えたのは、私は毒母にならずにいられるのか、ということ。私も夫も、恵まれてはいますが健全な家庭で育ったとは言い難い。義母の嫌味に何も言えない彼と、今でも母を恐れながらも従ってしまう私。果たしてこんな夫婦のもとに産まれてくる子どもはどうなってしまうのか……」

凛子さんは正直に、高志さんに「親になる自信が持てない、不妊治療をする決心がつかない」と打ち明けました。すると高志さんは笑顔でこう言ったそう。

「じゃあ治療はこっそり中断してさ、しばらくは考えなくていいんじゃない? 俺も精子採取とか、イヤだったんだよー」

 

妻を追い詰めない、包容力のある夫の発言のようにも聞こえますが、ここまでの積み重ねから、凛子さんは高志さんに初めて不信感を覚えたと言います。

 

「この人は、問題に向き合うのが面倒なだけなのでは……?」

治療を進めていると思っている義母は、しばらくして人が変わったように穏やかになったそう。

ところが数ヵ月後、凛子さんが家に帰宅すると、高志さんがいつになく深刻な顔で尋ねてきました。

「ねえ、凛子ちゃん、最近身の回りでおかしなことない? 事故にあいそうになったりしない?」

奥歯にものの挟まったような言い方に、凛子さんが高志さんを問い詰めると、翌日、義母が買い物に出た隙に、義実家フロアの茶室として使っている和室に連れていかれたといいます。

「なんと、和室の床の間には、奇妙な文字がびっしり書かれた掛け軸と、謎の置物がおいてありました。『驚かないでね凛子ちゃん。母がね、占い師もどきに傾倒して、結託して君を呪っていることが分かったんだ。外を歩くときは交通事故とか、とにかく用心して』って」

思わず取材のメモの手を止めて、凛子さんの顔をまじまじと見てしまいました。凛子さんの義両親は、極端なところもあるものの、そのような非論理的で現実離れした方法を取るイメージはありません。

高志さんの母は、気に入らない嫁のことを占い師に相談するうちに、おそらくいいように「金脈」として利用され、あることないこと吹き込まれたようでした。高志さんが掛け軸や、深夜の怪しい「おまじない」ルーティンについて探りをいれると「高志、もう少しで諸悪の根源が目の前から消えてくれるって。ママ、一生懸命お願いしているから、きっといい方向にいくから」と嬉しそうに打ちあけられたとか。

義母が自分を呪っている。なかなかのパワーワードです。どのように対処されたのでしょうか、と恐る恐る尋ねると、凛子さんは意外なことをおっしゃいました。