「この家に、まともな大人はいない」


「義母の発想以上に、それを多少なりとも信じて、私に変わったことがないかを尋ねてきたこと、そして知ってからも何をするでもない彼に、がっかりしました。私たちの家の中に、自分も含めてまともな大人はいないと痛感しました。全員が大人になりきれていないように感じて、これが私が苦労して手に入れたかった院長夫人の暮らしなのかと。昔の自分に復讐されたような、むなしさで一杯でしたね」

しかし、結論から言って、凛子さんは離婚を選択しませんでした。

けれど今までは常に依存してい実母ではなく、まず夫の高志さんに話し合いを挑んだことが大きな一歩でした。

陰で呪われるくらいならば、傷ついても本音で話し合いたいと申し入れ、義両親と凛子さん夫婦は幾度となく話し合ったそうです。子どもを持つことに不安があると正直に告げると、人として言うべきでない言葉の応酬がありました。しかし本音が出尽くした結果、半年ほどそれぞれがカウンセリングに通い、抱える問題を解きほぐしてみようと提案してくれたのは、普段は発言をほとんどしない義父だったそうです。

「カウンセリングを受けるうちに、自分を客観的に見ることができるようになりました。私は長い間、実母が決めたことに対し、自分で考えることもせずに被害者意識を持っていました。でも、医者と結婚したかったのは他でもない私。自分の打算です。間違っていたかもしれないけれど、その時は精一杯の決断で彼を選んだ。離婚はしようと思えばいつでもできる状況です。でも今回はカウンセラーの助けも借り、自分が納得のいくまでしっかり話し合ってみようと思っています」

問題の根本に、実母と自分との共依存関係があると理解した凛子さん。高齢で離れて暮らす母親が変化することを望むよりも、自分が自立することを目指しました。幸か不幸か、母親は娘が医者と結婚したことで目的を達成したと考え、以前ほど細かな口出しをすることはないようです。

凛子さんはカウンセリングをきっかけに、実母に夫婦や婚家の問題を相談するのをやめました。

「母の影響下から抜け出せるまでには時間がかかりますが、適切な距離感を探っているところです。愚痴を言う相手がいないぶん、目の前にいる夫と義両親と、なるべく話し合う時間を持つようになりました」

 

配偶者を選ぶということ。

心に任せて、すんなりといく方もいる一方で、経験や環境に縛られ、こじれてしまう方もいます。凛子さんは、若い時から考えるととても長い間、お母様の期待とご自身の意思のあいだで迷いを感じていらっしゃいました。

 

しかし最後に問題の本質に向き合うという方法を選んだことは、事態を好転させるきっかけになるでしょう。取材の終わりの表情は、そう思わせてくれるものでした。

人生には、いろいろな局面があります。衝突を避けて上手にやりすごしたほうがいいシーンもあれば、敢えてぶつかってみるという選択もあるのかもしれません。迷ったときは、ときに第三者の手も借りながら、結婚生活を「仕切りなおしてみる」のもひとつですね。

凛子さんと高志さんの今後の結婚生活が、納得のいくものであることを祈っています。
 


写真/Shutterstock
取材・文/佐野倫子
構成/山本理沙
 

 

 

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