読書の秋、本屋さんでおなじみの「選書フェア」をミモレ誌上で展開! 編集部員が1つのテーマに絞って厳選、推薦コメントとともに紹介します。

ミモレに在籍しながらさまざまなジャンルの書籍を編集している松崎が、作る側の目線で選んだのは?

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皆さま、こんにちは。ミモレ編集部の松崎です。

書籍編集を担当している私に出されたミモレ選書のお題は、「この本、私が作りたかった! 書籍編集者を唸らせた5冊」。あるある、そういう本いっぱいある! 本屋さんに行くと、どれもこれも面白そうで、アイデアが素晴らしいな、魅力的な著者だなと思うことばかりです。

ということで、さっそくセレクトしてみたら。

なんだか、My選書というよりは、書店の「今週のベストセラーランキング」みたいになってしまったのですよ。自分の売れ線狙いが恐ろしい……。

もっと、編集者としての自分のコアを探って、本当に作りたいと思っているものにちゃんと向き合ってみるべきでは? そう思い直し、うちの本棚の前にしばらく立ってみました。

今回は、そのときに「これだ!」とピカーンと光って見えた本(あえて新作以外)を5冊ご紹介します。
 

永遠に重版し続ける本
『愛するということ』

『愛するということ』エーリッヒ・フロム・著 紀伊国屋書店
私が持っているのは1991年刊行「新訳版」で、2009年発行第18刷。この本の「旧訳」は1959年刊行で、30年の間に50回版を重ねたそうです。そして2020年には「改訳・新装版」というのも出て、それも売れてます……。

売れ線狙いを反省しておきながら、1冊目から売れ線の最高峰を挙げてしまいました。
私が担当する作家さんの好きな言葉は「重版」、嫌いな言葉は「税金」だそうです。私はサラリーマンのため、ベストセラー作家が負う「税金」の重みはわかりませんが、「重版」の喜びはわかります! LOVE重版!

 

そもそも私の本棚には昔から、“物故作家”の名作が結構あります。その人がこの世から消えても、膨大な新刊の波にもまれても、淘汰されずに長く残り続けている本が、面白くないわけないわけがない。そして当たり前ですが、そんな本は、出版されてからずっとずっとずーーーっと重版し続けているのです。

たとえばこの『愛するということ』。雑誌の編集をしていた頃、私はある政治学者の連載を担当していました。その取材時、「結婚は誰としても同じ。そこに飛び込むかどうかです」というお話の流れから、その方の愛読書として教えてもらいました。愛は技術であり、それには理論があり、修練すればその技術は身に付くと説く、斬新な哲学書です(モテテクとか、そういうことじゃないですよ)。

「愛ってなんだろう」とは、誰もが人生で必ず抱く問いですが、だからこそ非常にありふれた、陳腐な問いとも言えます。その陳腐さをものともせず、ちゃんとわかりやすい言葉で、愛の深淵へといざなってくれるすごい本なのです。そして、「愛」への問いが人類から消えることはないから永遠に売れ続けるという、ベストセラー無限ループ。

いつか、普遍的な本、時を超えて長く長く読まれる本を作ってみたいというのは、私が編集者として持っている最大の野望です。