不妊治療を中断…夫婦を救った「保護犬」の存在


3度目の流産のあと、ご夫婦はしばらくの間、体外受精は休むことにしました。

「とにかくもう、流産するのが怖かった。原因もわからないまま、闇雲にあの苦痛を繰り返すのはできないと思いました。そこで先生から提案されたのが、“PGT-A”という検査でした」

専門的な話になりますが、この検査は体外受精によって得られた「胚」の染色体数を移植前に調べるもの。欧米では流産を防ぐ目的で実施されていますが、日本では「命の選別につながる」との倫理的観念から認められていませんでした。しかし現在は、特定の条件に当てはまる対象者にのみ実施をしています。

「体外受精で2回以上流産をした私たちは条件に当てはまり、検査をすることができました。でも結果は……異常なし。異常がないに越したことはないとわかっていても、原因がわからなければ対処もできず……このまま体外受精を続けるべきか否か、しばらく悩みました」

そして、ちょうどこの頃、新型コロナウィルスが世界中で猛威をふるい始めました。

当然ながら雪美さんの生活も一変し、緊急事態宣言の影響で仕事はなくなり、しばし病院へ通うのも中断することになったのです。

 

「この時の精神状態は、はっきり言ってどん底でした。仕事もなくなり、夫以外の人にも会うこともなくなり、気分転換に旅行や買い物にすら行けない特殊な状況でしたよね。一人で家でじっとしていると、どうしてもマイナス思考になってしまい、少し病んでいたと思います。こんなとき家に子どもがいたら幸せなのに……なんて妄想しては落ち込んでいました」

少し話は変わりますが、この連載の別の取材者では、緊急事態宣言中の子育てで夫婦喧嘩になり、別居となってしまったケースもありました。コロナ禍での生活の変化は、多くの家族に多大な影響を与えたのだと改めて実感します。

 

雪美さんもコロナ禍の緊急事態宣言が不妊治療期間中で一番辛かったと言いますが、しかし同時に、大きな転機が訪れました。

「落ち込んでいる私を見かねて、夫が犬を飼おうと言い始めたんです。でも、欧米には動物愛護の観点でもうペットショップはないから、飼うならレスキューの犬、保護犬を引き取りたいと言われました」

コロナ禍でペット需要は急増したと言いますが、雪美さんの場合はご主人の提案により、さっそく保護犬のボランティア団体を探しはじめました。

そして、“ブリーダー放棄犬”という可哀想な過去を持つワンちゃんとの出会いが夫婦に変化をもたらし、奇跡を呼び込むきっかけとなるのです。

次週、後編では、ようやく判明した不妊の原因、長い間妻を支え続けたご主人の胸の内、そして夫婦に起きた奇跡についてお話しいただきます。


写真/Shutterstock
取材・文・構成/山本理沙

 

 

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