ひょんなことから登場人物たちの体と心が入れ替わってしまう、そんな驚きの展開から始まる通称・入れ替わりモノ。そこから生まれる予想外のハプニングが見どころだったりしますよね。

では、余命半年の老婆、留年目前の大学生、宇宙人。この3人の中から必ず誰か一人と入れ替わるとしたら、あなたは誰を選びますか?

選べないというか、映画や漫画で描かれる入れ替わりモノってそういう感じだったっけ……と思わず頭を抱えたくなりますよね。ですが、これこそが『ひとがたり』で描かれる “入れ替わり”なのです。そんな世にも奇妙な入れ替わりから見えてくるものとは?

『ひとがたり』 (1) (ヒーローズコミックス ふらっと) (C)長谷川夏暉/ヒーローズ


自身の死を受け入れている老婆の前に現れたのは


余命半年と宣告された82歳のイト。本作は、そんな彼女のもとに自身を宇宙人だと名乗る少女・ヒカリが訪れるところから始まります。

(C)長谷川夏暉/ヒーローズ

人間の老いと死に憧れているというヒカリは、イトに身体の入れ替わりを提案しますが、彼女はすでに自身の死を受け入れている様子。このまま交渉決裂かと思いきや、2人のもとにイトの友人だという青年・フウタが現れます。

(C)長谷川夏暉/ヒーローズ

年の離れたイトと交友関係を築くなど、優しい好青年に見えるフウタですが、なんと彼は留年目前の大学生。こうして一部崖っぷち、そして性別、年齢、種族も違う3人が邂逅します。

 

突然の世にも奇妙な巡り合わせに戸惑いながらも、一緒にご飯を囲むなどゆるっと交流を続ける3人。和やかムードを醸し出す3人ですが、イトが突然の発作で倒れたことにより物語は大きく動き出すのです。

(C)長谷川夏暉/ヒーローズ

――今がチャンス! と言わんばかりにイトとの入れ替わりを試みるヒカリ。その傍で、無理やり入れ替わるのは良くないと必死に止めに入るフウタ。

その結果、ヒカリの望み通り“入れ替わり”は成功するのですが、その相関図は少々厄介なものに仕上がってしまうのです。

歪な入れ替わり、生に執着がない3人


自分の死を受け入れていたイトは、皮肉にも老いと死を知らないヒカリの身体へ。対するヒカリは人生崖っぷちのフウタ、そしてフウタは余命半年のイトの身体へ……こうして世にも奇妙な出会いに加え、歪な入れ替わりをしてしまった3人。

(C)長谷川夏暉/ヒーローズ

一見するとまだまだ若いフウタが、余命半年のイトと入れ替わってしまったことは、とてつもない不幸のように感じます。ですが、この男、泣き喚くことも、項垂れることもなく淡々としているのです。その様子はまるで生きることに執着がないみたい……。

余命半年の老婆、留年目前の大学生、宇宙人。何もかも異なる3人ですが、この“生への執着心の無さ”が唯一の共通点のようにも見えます。

 

それでも続く日常、迫りくる死とどう向き合うのか


体と心が入れ替わったとしても、そんなことはお構いなしに日常は続くし、死は容赦無く迫ってくる……その時、歪な入れ替わりを果たした3人はどう向き合うのでしょうか。

――続く日常、迫り来る死。これらのワードを目にすると、正面からしっかり向き合わねばとある種の責任感のようなものを感じる方も多いことでしょう。

ですが、重い現実をよそに、どこまでも飄々としていて、さらに生への執着がないからか独特の軽さを醸し出す3人を見ていると、正面から向き合う以外の方法があるのではないかと。新たな死生観と巡り合えそうな予感がします。

ぜひ、『ひとがたり』で描かれる世にも奇妙な日常を覗いてみてはいかがでしょうか。
 

 

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<作品紹介>
『ひとがたり』
長谷川 夏暉 (著)

余命半年と宣告された82歳のイトの元に、自身を宇宙人だと名乗る少女・ヒカリが訪れる。 ヒカリは「身体を入れ替えることで、わたしをおまえの代わりに死なせてくれないか?」と願い出るが、イトは既に自身の死を受け入れていた。そこにイトの友人だという青年・フウタが現れて…。 異彩の新人作家・長谷川夏暉が描く、オフビートな日常譚。


<作者プロフィール>
長谷川夏暉

2019年に『神宮寺将門は生を全うする』で第81回ちばてつや賞ヤング部門佳作を受賞し漫画家デビュー。現在は漫画サイト「コミプレ」内「ふらっとヒーローズ」にて『ひとがたり』を連載中。
Twitter:@wokasit