優秀な女性がいないどころか、どんどんいなくなりつつある現状


男村の長たちはきっとこうも言うでしょう。「だって優秀な女性がいないじゃないか」。いますよ。見えてないんです、あなたには。かけてるメガネがピンボケなんです。男村の働き方に適応した人しか“優秀”と見做さない視野の狭さと認知の歪みが大問題です。しかし実際、女性がいなくなりつつあるのかもしれません。外務省の調査によると、昨年10月時点での日本人の海外永住者は過去最高のおよそ55万7千人で、前年よりおよそ2万人増。10年前と比べると14万人以上の増加。男女比を見ると、62%を女性が占めるそうです。

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子供を持つ知人が「うちは女の子だから、国外に出られるようインターに入れないと」と切実な顔で語るのを何度も聞きました。私も若い女性には、性差別で貴重な時間を無駄にしないよう、もしチャンスがあるなら是非日本よりもジェンダー格差の少ない国で学んだり働いたりすることを勧めています。こうして女性は100年先も変わらないであろうメンズジャパンから静かに逃げて、もう戻ってこないのです。

 

同じことは地方自治体ですでに起きています。兵庫県豊岡市では、進学などで地元を出て行った若い人のうち、男性のおよそ半数は戻ってくるのに、女性は四人に一人ほどしか戻っていないことに気づきました。将来の人口減少に危機感を覚えてヒアリング調査を行ったところ、性別役割の押し付けや雇用や賃金のジェンダーギャップが、女性たちの足を故郷から遠ざけていることが判明。市は対策室を設置し、2025年までに地域連合会の役員の女性比率を3割にすると目標を設定しました。しかしコロナ禍に襲われ、市長選ではジェンダーギャップ解消ではなく、コロナ禍で傷んだ生活の支援を訴えた候補が当選しました。

賃金が上がらず、長引くコロナ禍と急激な物価高で生活不安の増す日本では、国政でも同じことが起きかねません。ジェンダーなんて理屈を言っている場合ではない、今は暮らし優先だ。あるいは安全保障上の不安を煽り、ジェンダーなんて呑気なことをと、問題を矮小化することもあり得るでしょう。ジェンダーギャップや性差別という日本の存続に関わる人権問題を「さほど深刻ではない課題」とする歪んだ現状認識こそが、社会を閉塞させ成長を阻んでいる元凶です。20年も前にジェンダーギャップの問題に気づいていたのに、数値目標の達成も果たせぬまま先送りして今に至る日本。その責任を“透明な存在”である女性の意識や努力のせいにして逃げ切ろうとする限り、いかに異次元の少子化対策を講じようとも、再び人々が活気を取り戻すことも、国が豊かになることもないでしょう。男だらけの集合写真はすでに当たり前ではなく、批判の対象となりました。これを“まだ野蛮だった頃の日本”の遺物として驚きをもって眺める日が、遠からず訪れますように。今が正念場です。

 


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