多様な価値観に触れることで見につくレジリエンス


「僕は、東京の少々ワイルドな地域で育ったので、周りにいた友達はいろんな環境の子がいました。自分の価値観だけを押し通そうとすれば、打たれ、ぼこぼこにされる可能性もあります。喧嘩やカツアゲみたいなことも無縁ではいられません。他者にフィジカルにダメージを与えられるインパクトって凄いんですよ。地元では大学に進学することは当然ではないし、例えば私立中学に行くひとはクラスでも1人か2人。僕の実家も平均的な家でしたから、家のお金に限りがあり、その中でやっていくというのは当然のこと。

だから妻が、教育費に家族でフルベット! 環境が大事! みたいなことはピンときません。なぜならば、僕は公立で育ったことで、逆境での強さとか、周囲に流されずコツコツ積み重ねることの練習ができたと思ってるんです。レジリエンスっていうんでしょうか。同じような家庭がそろい、レベルの高い集団に属する良さもあるのはわかるんですが、そこで得られるものと、公立中学に進学して得られるものって、全然違うけどどちらもいいものだと思うから。

それだったらば、無理してお金をかけて、私立に行くことはないと思うんです。お金って大事ですよ。だからこそいざという時のために、家族のためにとっておくべきだと思う。病気や事故、子どもが将来例えば医学部や留学を志したとき……お金がないと何もできない。だからこそ都心に住んで、小学生から大金をかけて塾に行き、6年間私立に行って、それで貯金ができなくなっても仕方ないという妻の主張には賛成できませんでした」

伺うほどに、共感できるポイントが随所にあります。最初は子どものことを第一に考える美佳さんのおっしゃることもわかる、と思っていましたが、正勝さんも秘めた熱い想いを抱いていました。

しかし、だからこそ、夫婦の価値観の違いは深刻なのです。

 

結局、家は奥さんの執念と根性で探し出した都心の割安なマンションに決定。正勝さんが広くて庭のある一軒家を諦め、折れた形となりました。「結果的にはその後10年でマンションの値段は2倍近くに上がり、資産性という意味では賃貸や郊外の一軒家を買うよりも資産を増やすことはできたと思いますが……窓を開けると隣のマンションが見えるのでカーテンは閉めています」と正勝さん。それでも、通勤時間が15分ほどになったことは感謝しているともおっしゃっていました。

 

その後お2人目が生まれ、あっという間に成長、小学生に。美佳さんはいよいよ中学受験に舵を切ります。