子育てを理由に仕事を手放すのは、敗北ではなく成功


これまでに世界で売れた本だけでも累計1400万部を超え、Netflixの番組がエミー賞を受賞というとんでもないスケールの成功をおさめている彼女がいわば本業の片付けをやめたという事実は、人々が散らかった部屋を正当化する最強の理由になるでしょう。

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それだけではありません。おそらくこんまりが片付けをやめたことで心理的に最も恩恵を被るのは、子育て中の男性ではないでしょうか。できたばかりの男性の産休育休制度を使う時、子供の発熱で早退しなくてはならない時、お迎えで打ち合わせを切り上げなくてはならない時、子育ては妻がするものと信じている男たちが舌打ちをする時、頭をよぎるのは「仕事人として失格なのではないか」という不安と罪悪感です。そんな時は自分に言ってやってほしい。「今や目も眩むような大金持ちのグローバルセレブになったあのこんまりだって、子育てを理由に本業の片付けをやめたんだ」と。肝心なのは、それは敗北ではないということ。彼女は、成功したのです。どれほど大きな看板でも、人生の変化に合わせて掲げた看板を下ろすのはアリだと示したのです。

 

こんまりだけではエビデンスとして心もとないという人は、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン前首相も思い出して下さい。彼女は首相に就任後出産し、産休をとり、多くの国民に尊敬され、コロナ禍の難しい舵取りをこなし、そして今年「タンクが空っぽになった。政治家も人間だ」と言って辞任しました。反ワクチンを訴える人々やネットのミソジニスト(女性を嫌悪する人々)からの攻撃に疲弊したという指摘もありますが、4歳の子供と一緒に過ごしたいという理由もあるでしょう。これも、やはり彼女は成功したのです。一国の首相という権力の頂点に上り詰めても、それを手放すことができた。彼女は人生を権力に搾取され続けることなく、自分の手で選択をすることができました。勇気と知性のなせる業です。