セックスがなくても、妻と過ごす時間が好きだった


俊哉さん夫婦は結婚生活6年目で、交際期間も含めると約10年の付き合いでした。妻とは友人を通して出会ったことから、お互いの友人を交えて遊ぶことも多く、盲目的な恋愛関係というよりは、友情の延長とまではいかなくても、穏やかで平和な時間を少しずつ築き上げて結婚に至ったと言います。

「妻に出会う前の若い頃は、ただ見た目がタイプだったり、色気のある女性とばかり遊んだり付き合ったりしていました。はい……、女性関係は正直派手な方だったと思います。妻に関しては最初はそれほど異性として惹かれたわけではなく、『今どき珍しい良い子だな』と思っていました。

真面目で自立していて、何というか、まともな子で。最近男女の『奢り奢られ問題』がよく話題になっていますが、それまで女性に対しては『奢る』一択だった僕との食事で、『この前奢ってもらったから』と、知らない間にお会計を済ませてくれたりする一面もあって。本当に良い子だなあと思っていました。言い方は悪いかもしれませんが、一緒にいて無駄なエネルギーを使わなくて済むんです。でもそんなところが、本当に好きでした」 

それまでは時間や労力、お金を使い、熱心に女性を口説くのが常だったという俊哉さん。紀香さんの場合は、そうしたエネルギーをさほど必要とせず、自然体で一緒にいられることが居心地よく感じられ、二人は3年の交際を経て結婚しました。

 

結婚後、二人は俊哉さんがもともと住んでいたマンションにそのまま住むことになりました。お互いに利便性の高い立地が気に入っており、広めの1LDKの部屋は夫婦で住むのに問題はありませんでした。

 

「家賃や光熱費などはそのまま僕が払う代わりに、彼女はその他の生活費や家事を負担してくれるようになりました。以前は『結婚にメリットはない』『もっと良い子がいるかも』なんて思ったりもしましたけど、妻との生活は思った以上に快適でした。結婚を決意するまでには3年かかりましたが、結婚して本当に良かったし、もともと結婚願望があった彼女も同じ気持ちだと思っていました」

紀香さんは仕事も多忙で交友関係も広かったため、結婚後もお互いに自由時間があったと言います。仕事上の接待や飲み会などにも寛容なタイプで、平日はほぼ別々に過ごし、週末は予定がなければ二人でのんびり過ごす。そんな生活が数年続いていました。

「でも、本当に今となっては後悔しかないんですが……、結婚前から夜の生活はほぼなかったんです。もともと外見よりも中身に惹かれたこともあったし、正直なところ、当初から身体の相性はあまり良くなくて。

でも妻のことは好きだったし、セックスがなくても彼女と過ごす時間が好きでした。僕もそれなりに歳をとったし、妻のようなきちんとしたパートナーがいれば昔のようなモテたい願望もなくなり、性欲も落ち着くものなんだと思っていて。気づけばスキンシップがないまま4年も経っていたんですよね。ああ……本当に、馬鹿ですよね」

項垂れる俊哉さんからは、間違いなく深い後悔が感じられます。

話を聞く限り、俊哉さんの恋愛経験値は高い方で、紀香さんに出会うまでは多くの女性と広く浅い交際を続けてきたよう。だからこそ、性欲が湧かなくても穏やかに過ごせる妻との関係にむしろ居心地の良さや価値を感じていた面もあるようです。

しかしながら、そんな夫の裏で、実は妻は4年間にも渡るセックスレスに苦しんでいました。そして俊哉さんは、妻が発していたアラートに気づくことができなかったのです。